第7章 親と子のボーダーライン(その236)
「昔から、死んだら“あの世に行く”って言うだろ?」
お婆さんは一呼吸空けてからまた話し始める。
「婆ちゃん、もう、その話は・・・。」
おじさん警察官が割って入ってくる。
お婆さんに、もうこれ以上話させないようにと思っているらしい。
「いや、駐在さん、この話だけはさせとくれ。」
お婆さんが抵抗をする。
「大丈夫なのかい?」
おじさん警察官が心配そうに訊く。
それに対して、お婆さんは大きく頷くだけだった。
「私はねぇ、人間というのは“あの世”と“この世”を行ったり来たりしてるんだって思ってるんだよ。」
「えっ! 行ったり来たり?」
哲司は驚きの声をあげる。
まるで宇宙旅行の話を聞かされているような感じがする。
「そうだよ。
だってね、“あの世”に行く人ばっかしだったら、“あの世”も人の数がどんどん増えて住みにくくなるだろ?」
「・・・・・・。」
「それじゃあ大変だって、神様が“あの世”から“この世”に人間を送ってくるんだよ。」
「・・・・・・。」
哲司は黙って聞いていた。
何とも言えない分かりにくい話だった。
「じゃあ、赤ちゃんはどこから来るんだろうね?」
お婆さんは、そんな哲司を見てか、話を切り替えてくる。
「お母さんのお腹の中から?」
哲司は、どうも違うような気がしつつも、そう言った。
「そのお母さんのお腹の中に入る前だよ。」
「う~ん・・・。」
哲司には、その答えはなかった。
「それはきっと“あの世”からなんだよ。」
「ん?」
「赤ちゃんは、つまり人間は、“この世”に生まれるために“あの世”からお母さんのお腹の中にやってくるんだ。
神様の手で運ばれてね。」
「コウノトリじゃなくって?」
「ああ、それは、神様がコウノトリの姿に変身されているだけ。」
「あの世から・・・。」
哲司の頭には、絵本か何かで見たコウノトリが赤ちゃんを運んで夜空を飛ぶ絵が描かれていた。
(つづく)