第7章 親と子のボーダーライン(その229)
「世の中には、野良犬ってのがいるだろう?」
おじさん警察官が胡坐をかくように座りなおしてから言って来る。
「う、うん・・・。」
「もともと、犬ってのは人間が飼っていたものなんだ。野生の犬なんていやしないんだ。
人間の身勝手さで、世話が出来なくなって捨てるんだな。
そうした犬が野良犬と呼ばれるようになる。」
「・・・・・・。」
哲司にも、その理屈だけは何となくだか分かるような気がする。
「実は、この丸子ちゃんも、そうした野良犬だったんだ。
もちろん、この村じゃないんだが・・・。」
「えっ! この丸子ちゃんが?」
「ああ・・・、そうだ。で、保健所に捕獲されてな。
一定期間に新たな飼い主が見つからなければ、始末されるところだったんだ。」
「し、始末って・・・。」
哲司も、その意味は薄々分かっていた。
「殺してしまうんだな。」
「か、可哀想に・・・。」
「そうだな、ほんと、可哀想だ。こうした犬たちの責任じゃないんだしな。」
「そ、それで?」
哲司は、その先が聞きたくなる。
「ああ・・・、そんな時、ここに来ているヘルパーさんが、介助犬ってのがいるらしいんだけれど、そうした犬がお婆ちゃんちにも来てくれると良いのにねって話をしてたんだ。
おじさんが来ていたときにな・・・。」
「う、うん・・・。」
「それで、思いついたんだ。
ま、いきなり介助犬ってのは難しいだろうが、単に従順で人間の言うことをしっかり守ってくれる犬がいれば、きっと婆ちゃんも淋しくは無いだろうし・・・って。
で、犬を飼う気はないかって訊いたんだ。」
「・・・・・・。」
「そうしたらな、婆ちゃん、任せるって・・・。
で、おじさん、保健所に行って、この丸子ちゃんを貰ってきたんだ。」
「へぇ~、そうだったんだ・・・。」
「この子、以前、どんな家に飼われていたのかは分からないんだが、兎に角、人の言うことをしっかりと聞くことが出来るんだ。
で、保健所の担当者から、このフレンチブルドッグだったら、きっと老人の良き友達になれるだろうって勧めてくれたものだから・・・。」
「・・・・・・。」
「でもな、正直、心配だったんだ・・・。本当に、上手く馴染んでくれるだろうかってな。
で、一応、試験的にって3日間借りる事で話をつけてきたんだ。
ところがだ・・・。もう、その最初の日に、相思相愛。」
「ソウシソウアイって?」
「つ、つまりは、その日のうちに仲良くなってしまったってことだ。」
「ああ・・・、そうだったんだ・・・。」
哲司は、聞いていて、自分の事のように嬉しくなった。
(つづく)