第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その21)
「そうなんです。すぐに嘘だと分るのに、あの子は貴方の名前を口にした。
私も、それが不思議だったんです。」
店長はそう言って、そこで一旦言葉を止める。
それから、またまた、窓から向かいの店にいる奈菜の方を見やる。
哲司は黙って次の言葉を待っている。
最も肝心なことがこれから話されようとしているのだ。
構えて当然である。
「あの子が妊娠をしたのではないかと心配になったとき、普通の家庭なら、やはり真っ先に相談するのは母親でしょうね。
でも、あの子にはその母親がいない。
それで、叔母のところへそれとなしに相談に行ったらしいんです。」
店長はそう言ってから珈琲を一口飲む。
それを見て、哲司も同じように珈琲カップを口に運んだ。
「あの子にしたら、生理が予定の時期になっても来ないことをまず心配したようです。病気なんじゃないのかと。
それまでは、そんなに狂うことが無かったそうですから。
それを聞いた叔母が、最近の高校生なのだからと、妊娠するようなことをしたことがあるのかと訊いたそうです。」
この店長の言葉に、哲司は顔を上げた。
「で?」
哲司がその先を急ぐ。
「う〜ん、そこら辺りがどうもあやふやでね。」
店長が少し身を引くようにしてそう言った。
「あやふや?」
哲司はその言葉が信じられない。
そうした行為があったのかどうかを問われて、あやふやだというのが納得できない。
「つまり、そうしたことがあったのかどうかも、本人は分らないということなんです。」
店長は哲司がどのように反応するのかを見定めようとしている。
「それって、どういうことです?」
哲司は、自分がはぐらかされているような気になってくる。
「どうもこうもなく、どうやら、それが本当のところだったようです。」
店長は哲司の反応に対応するような言い方をする。
哲司は、言われている意味がよく分からない。
「言われていることが僕には分りません。」
哲司はとうとう投げ出すようにそう言った。
「う〜ん、実はね、集団暴行の対象となったらしいんですよ。
でも、本人にはその記憶が無い。
気がついたら、どうやらそのようなことがあったらしいということで。」
哲司には、「まさか?」という思いしかない。
(つづく)