第7章 親と子のボーダーライン(その228)
静かな時間が流れている。
誰も何も話さない。
そうした中で、その丸子ちゃんが握り飯を食べる音だけが聞こえる。
ペチャペチャという音なのだが、その音が「美味しい、美味しい」と言っているように聞こえるから不思議だ。
丸子ちゃんが食べ終えた。
それでも、改めてお皿の中をぐるりと見渡すようにする。
如何にも食べ残しが無いかを確かめているようにだ。
「美味しかったねぇ・・・。」
お婆さんが丸子ちゃんの代弁をするように言う。
その食べ方で分かるのだろう。
「はい、じゃあ、“ご馳走様”をして。」
お婆さんがそう言うと、丸子ちゃんは前足を前に伸ばすようにして、その上に頭を乗せるようにする。
どうやら、それが丸子ちゃん流の“ご馳走様”らしい。
「賢いねぇ、ちゃんと言えて・・・。
はい、じゃあ、お皿、片付けておいで・・・。」
お婆さんの言葉に、丸子ちゃんは、自分が咥えてきた皿をまた咥えてそこを駆け出していく。
「ど、どこに?」
思わず哲司が訊いた。
自分が使った食器を片付ける犬なんて、聞いたことがなかったこともある。
「ちゃんと決められた場所があってな。そこに置いておくと、ヘルパーさんが来たときに洗ってくれるんだ。
そうしたことも、あの丸子ちゃんはちゃんと理解してるんだ。
ほんと、賢い子だよ。」
おじさん警察官が説明してくれる。
いちいちお婆さんにしゃべらさなくっても・・・との配慮なのだろう。
「いやいや、これも駐在さんのお陰でして・・・。ほんと、ありがたいことです。」
お婆さんはそう言って、また両手を合わせるようにする。
「ん?」
哲司は、お婆さんが言った意味が分からなかった。
そこに、また丸子ちゃんが駆け足で戻ってくる。
そして、先ほどと同じように、お婆さんの布団の横にちょこんと座る。
「実はな、この丸子ちゃんも、もう少しで命を落とすところだったんだ。」
おじさん警察官が話し始める。
「えっ! ど、どういうこと?」
哲司がおじさんの顔を見上げるようにする。
(つづく)