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第7章 親と子のボーダーライン(その227)

「じゃあ、丸子、お前のお皿を持っておいで・・・。」

お婆さんが言う。

犬は、お婆さんの口元をしっかりと見つめた後、すぐさまその場から駆け出して行った。

そして、これまたすぐに戻ってくる。


犬はプラスチックか何かで出来た柔らか目の皿を咥えてきた。

そして、それをお婆さんの布団の傍にそっと置く。



「おにぎり貰うかい?」

お婆さんは握り飯が乗った皿を手にして訊く。


「ワン!」

ちょこんと正座をした犬が一声だけ小さく吼えた。

どうやら、「うん」と言っているようだ。


お婆さんが皿に掛かっていたラップをちょっとだけ剥がして、その中の1個だけを取り出す。

そして、犬が咥えてきた皿にそれを置いてやる。


すぐにでも食いつくのかと思っていたのだが、犬はびくりともしない。

そして、お婆さんがラップを掛けなおした皿を枕元に置いてからも、じっとお婆さんの顔を見つめるだけにしている。


「はい、丸子、じゃあ、“頂きます”って言ってからね。」

お婆さんがそう言うと、犬はおじさん警察官と哲司の方を見て小さくお辞儀をした。

少なくとも哲司にはそう思えた。


「はい、おあがり。」

お婆さんがそう言ったのを確認してから、犬はおもむろに握り飯にかぶりつく。

かと言って、がっつく雰囲気ではない。

まことにお上品なのだ。



「うふふふ・・・。」

哲司の口からふと笑い声が漏れた。

何とも可愛いのだ。その犬が。


哲司はフレンチブルドッグという犬を間近で見たのは初めてだった。

最初、出迎えに来てくれたときには、何とも厳つい顔をしている犬だと思ったのだが、こうしてそれからの動きをひとつひとつ見せられると、その印象は大きく変ってきていた。

身体全体からすれば、顔だけがとても大きいように思える。

そう、まるで顔に短い足が生えているような感じになる。


その厳つい顔の犬が、寝たきりのお婆さんの言うことを、ひとつひとつ確かめるようにして動いている。

おじさん警察官が言ったとおりだ。

「お婆さんが絶対」なのだ。

しかも、何ともおしとやかな動きをする。

座るにしても、足をちゃんと畳んでまさに正座をするのだ。

「丸子ちゃん」と皆から呼ばれるのが分かるような気がする。



(つづく)




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