第7章 親と子のボーダーライン(その225)
おじさん警察官の言うとおりだった。
家の中から、ドタドタと廊下を犬が走ってくる音がした。
やがて、目の前に小型の犬が飛び出して来る。
何ともお茶目な顔をしていた。
小型のブルドッグだった。
「おう、丸子ちゃん・・・。」
おじさん警察官がしゃがんでやると、抱きつくようにしてその顔を舐めに来る。
「婆ちゃんは元気か?」
そう言うと、その犬は、すぐさま家の中へととってかえした。
何とも忙しい犬である。
「上がらせてもらうよ。」
おじさん警察官が、家の奥に向かって大きな声で言う。
そして、その返事も無いのに靴を脱ぎ始める。
「哲司君も上がらせてもらえ。」
おじさん警察官が言う。
哲司も同じようにして靴を脱いだ。
そして、その靴をそろえて端に寄せる。
玄関から入って、廊下をまっすぐに行く。
と、また向こうから先ほどの犬が走ってくる。
そして、廊下のとあるところでちょこんと座った。
余程忙しく動いたのだろう。
ちいさな舌を覗かせて、ぜいぜいと息をしている。
「婆ちゃん、調子はどうだぁ?」
おじさん警察官がそう声を掛けながら、ある部屋へと入って行く。
哲司もその後ろを付いていく。
部屋の中には、ひとりのお婆さんが布団の上で横になっていた。
夏場だというのに、お腹から下にはタオルケットが掛けられていた。
お婆さんは、おじさん警察官に向かって小さく会釈をした。
そして、哲司を見て不思議そうな顔をする。
「ああ、紹介しておこうか。この子は周蔵爺さんのお孫さんで、名前は哲司君。
丸子ちゃんにお土産を持って来てくれたんだ。」
おじさん警察官がそう紹介をしてくれる。
それも結構大きな声でだ。
きっと、お婆さん、耳が遠くなっているんだなと哲司は理解をする。
で、哲司は、ぺこりと頭を下げるだけにする。
それ以上の言葉は邪魔になりそうに思えた。
気が付くと、哲司の傍に先ほどの犬がやってきて、これまた礼儀正しくちょこんと正座をするように座っていた。
そして、物珍しそうに哲司の顔を見上げてくる。
(つづく)