第7章 親と子のボーダーライン(その224)
「お~い! 明夫。」
おじさん警察官が階段を駆け上がっていく男の子に声を掛ける。
「ん? な~に?」
男の子は、階段の途中で足を止めて振り返ってくる。
「住職さんが戻ったら、駐在が来てたって言っておいてくれるか?」
「いいけど・・・、いつまで境内にいるかわかんないよ。」
「ああ・・・、会ったらで良いから・・・。」
「は~い、分かったよ。」
男の子は、そう言ってから、またすぐに階段を駆け上がっていく。
「やっぱ、子供は元気だなぁ・・・。」
おじさん警察官は、そう言って上がっていく男の子の後姿を見上げるようにしている。
「じゃあね~!」
階段の上から男の子の声がした。
もう一番上まで行ったようだ。そこから手を振ってくる。
「おう~・・・。」
おじさん警察官は、そう言ってからようやく哲司の方へと視線を持ってくる。
「じゃあ、行こうか。」
「お寺は?」
「住職さんがいないんじゃあ、上がっても無駄だしなぁ~。
それとも、この階段、今の明夫みたいに駆け上がってみるか?」
おじさん警察官は哲司を試すかのように言って来る。
「ううん・・・、もう良いよ。」
哲司はそう短く答える。
階段を登ってみたい気もする。
きっと上からだと相当に眺めが良いのだろうとは思う。
それでも、今の男の子とまた顔を会わせるかも知れないという気持があって、それを躊躇させている。
「よ~し、じゃあ、先に丸子ちゃんの所へ行こう。」
おじさん警察官は、そう言って、また哲司の身体を自転車の上に持ち上げてくれる。
「今度はすぐだからな。」
そう言って自転車を漕ぎ始める。
確かにすぐだった。
お寺の階段下を出発して、ものの2分ほどだった。
「ここだ。」
そう言って自転車を止める。
家の中から、犬が吼える声がする。
「あれが丸子ちゃんだ・・・。もうすぐ、出迎えに来てくれるよ。」
おじさん警察官は、そう言って、哲司を自転車から降ろしてくれた。
(つづく)