第7章 親と子のボーダーライン(その222)
そして、再び自転車が走り出す。
「陽子ちゃんの所は別にして、今、おじさんがこうして巡回をしているのは、ひとり住まいのお年寄りのところばかりなんだ。
だから、哲司君の爺ちゃんのところにも立ち寄ったんだ。」
おじさん警察官は、自転車を漕ぎながら話して来る。
「ん? どうして?」
哲司は、その巡回と言う意味が分からなかった。
「おじさんは警察官だ。だから、表向いては、そうしたひとり住まいのお年寄り宅の防犯指導ってことになってはいるが、実質的には“無事”の確認をしてるんだな。」
「無事の確認って?」
「つ、つまりはだ・・・、“元気ですか?”ってことだ。」
「・・・・・・。」
「哲司君の爺ちゃんだってそうだろ?
例えばだ、風邪でも引いて熱が出て寝込んでいたりしても、誰も気がつかないってこともある。
あるいは、畑に出ていて、突然に苦しくなってその場に倒れてしまうことだって考えられるだろ?」
「そ、そんなぁ・・・。」
「そうだな。そんなことがあってはいけないんだが、実際にそうしたことがこの村でも起きてるんだ。
誰か家族が一緒だと、帰りが遅いとかで気がつくんだが、ひとり住まいの場合はな、こうして周囲が気にかけてあげないと・・・。
哲司君にも、それは分かるだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司は、祖父の笑顔を思い浮かべている。
「で、あの陽子ちゃんちは、村会議員をやられているんで、立ち寄ったんだ。
いろいろと相談しなきゃいけないこともあるしな。」
「・・・・・・。」
「哲司君は、階段100段が登れるか?」
おじさん警察官が突然のように訊いて来る。
「か、階段?」
「ああ・・・、次に行くお寺は、階段が100段あるんだ。
登れないようだったら、下で待ってるか?」
「ううん・・・、登れるよ。」
哲司は階段100段を登れる自信はなかったものの、ひとりで置いて行かれるのが嫌だから、敢えてそう言い切った。
何としてでも、おじさんに付いて行こうと思う。
「そっか・・・。じゃあ、おじさんと競争でもしてみるか・・・。」
「う、うん・・・、良いよ。」
哲司は、もう勝ち負けではない。
やがて、自転車が止まった。
哲司の視界にも、その100段の階段が飛び込んできた。
「うわぁ~・・・。」
哲司は、それしか言葉が出なかった。
(つづく)