第7章 親と子のボーダーライン(その218)
哲司はほっとする。
「ああ・・・、駐在さん。こんにちわ。」
お姉ちゃんがおじさん警察官に挨拶をする。
「おお、陽子ちゃん、相変わらず感心なことだなぁ・・・。」
「い、いえ、そんなことは・・・。
それより、この子は?」
お姉ちゃんは自分のことより哲司のことが気になるようだ。
「ああ、この子は周蔵爺さんとこの孫だ。名前は哲司君。
しばらくいるようだから、仲良くしてやってよ。」
「ああ・・・、そ、そうだったの・・・。
私は村田陽子って言うの。よろしくね。」
お姉ちゃんは、哲司の顔をじっと見てきて言う。
哲司も黙って頭を小さく下げた。
「哲司君、この陽子姉ちゃんは、牛の世話を任されてるんだ。
凄いだろ?」
おじさん警察官が言ってくる。
まるで自分の娘を紹介するようにだ。
「哲司君は牛に乗ったことあるか?」
「えっ! う、牛に乗る? そんなこと・・・。」
哲司は大きく頭を振って否定する。
「じゃあな、今度、陽子姉ちゃんに頼んで乗せてもらうと良い。」
「・・・・・・。」
哲司は尻込みをする。
とんでもないことを言うおじさんだと思う。
「そ、そうね。今度は、ひとりで遊びにおいでよ。
お爺ちゃんの家からだと、この道1本だから、迷わないわよ。
そうねぇ、午前中に来たら?
カウを散歩させるから、その時に乗せてあげるわ。」
「カウって?」
「うちの牛の名前。カウボーイのカウよ。」
お姉ちゃんは楽しそうに笑って言う。
「じゃあ、哲司君、そろそろ行こうか?」
おじさん警察官が腕時計を見ながら言う。
「う、うん・・・。」
哲司は、お姉ちゃんにちょこんと頭を下げてから、自転車の方に近づいていく。
また、先ほどと同じようにして乗せてくれるのだろうと思ってのことだ。
「今からどこに?」
陽子お姉ちゃんが訊く。
「巡回訪問だから・・・。で、最後は丸子ちゃんのところだ。
この子をそこまで連れて行ってやる約束でな。」
おじさん警察官が哲司を荷台に持ち上げながら答えている。
(つづく)