第7章 親と子のボーダーライン(その217)
「・・・・・・。」
哲司は答えられなかった。
「だ、だれ? お兄ちゃんなの?
また、驚かせようって?
もう、その手は食わないわよ。
そんな暇があったら、手伝ってよ。」
中にいる子供は、どうやら女の子のようだ。
姿はまだ確認出来ていないが、哲司よりはちょっとだけお姉ちゃんのような感じがする。
(そ、そんなこと・・・、言われても・・・。)
哲司は、自分が誰かと勘違いされたのは分かったものの、だからと言って「僕は違います」とも言い出せない。
で、知らず知らずのうちに後ずさりをしていた。
「ねぇったら・・・。」
そう言って、中から女の子が飛び出してきた。
上下、紺色のジャージを着ていた。
で、長い髪を後ろで束ねている。
「あ、あら! 御免なさい・・・。」
女の子は、自分が勘違いをしていたことに気がついて言う。
「ど、どこの子? 見かけない子ね。」
女の子は、タオルで吹き出る汗を拭いながら、哲司の顔をマジマジと見てくる。
中学校に通うぐらいのお姉ちゃんだ。
「・・・・・・。」
哲司は、もう何も言えなくなっていた。
「ん? まさか、迷子じゃないでしょう?」
お姉ちゃんは、哲司の服装を見て首を傾げる。
「・・・・・・。」
「あら、駐在さんの自転車だ・・・。って、ことは、やっぱ、迷子?」
「ううん、ち、違うよ・・・。」
哲司は、ようやくそれだけを言う。
「僕、お名前は?」
お姉ちゃんは、哲司の前にしゃがむようにして訊いて来る。
「巽哲司。」
「たつみ? この村には、そんな家はなかったけど・・・。
で、駐在さんと一緒に来たの?」
「う、うん。」
「ああ、やっぱり?」
「・・・・・・。」
やっぱり・・・と言われても、哲司はその意味が分からない。
「おお、待たせたな。」
そこに、おじさん警察官が戻ってきた。
(つづく)