第7章 親と子のボーダーライン(その216)
「で、だ・・・。」
おじさん警察官は、哲司が大事そうに持っていた握り飯が乗った小皿を、哲司の膝の間に固定するように嵌めてくる。
「これで、落ちんだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司は、落とさないだけの自信は無かったが、おじさん警察官にそう言われると頷くほかはなかった。
「よし! じゃあ、行くぞ!」
おじさん警察官は、そう掛け声を掛けるようにして自転車を押し出した。
そして、自分もサドルの上に尻を乗っけた。
自転車がゆっくりと走り始める。
哲司は、握り飯が乗った小皿が落ちないかが心配だったが、半ズボンを穿いた太股の間でうまく固定されていて、ピタッとも動かなかった。
「凸凹道だし、多少は尻が痛いかも知れんが、まぁ、ちょっとのあいだ我慢してくれや。」
おじさん警察官が事前にそう断ってくる。
「う、うん・・・、大丈夫だよ。」
哲司は、その凸凹道から上がってくる微妙な震動を心地良いものと感じていた。
田んぼのあぜ道のようなところを5分も走っただろうか。
大きな小屋が建っている家の前で自転車が止まった。
「よっこいしょ!」
おじさん警察官は、そう言って、自転車のスタンドを押し立てた。
「降りるか?」
哲司に向けて訊いてくる。
そのくせ、その返事を待たずして、哲司の身体を持ち上げに掛かる。
「ここで待っててくれ。おじさんは、ちょっとこの家に用事があるんでな。」
「う、うん・・・。分かった。」
おじさん警察官はそう言ってから門の中へと入って行った。
自転車から降ろされた哲司は、興味深そうに周囲を見渡す。
先ほどから見えていた大きな小屋の中に何かがいる気配がした。
人なのか、あるいは動物なのか・・・。
哲司は迷ったものの、「ここで待っていろ」と言われた自転車の傍からそんなに離れていないことから、その小屋の中を覗いてみたくなった。
そっと、音を立てないようにして小屋に近づく。
その戸が僅かに開いていたからでもある。
「モ、モウ~・・・。」
哲司の気配に気が付いたのか、中にいた動物が鳴いた。
そ、そう、牛がいたのだ。
「ん? だ~れ?」
中から子供の声がした。
(つづく)