第7章 親と子のボーダーライン(その215)
哲司がトイレを済ませて戻ると、おじさん警察官はもう弁当を食べ終わっていた。
そして、煙草を吸っていた。
「じゃあ、この握り飯は哲司君に持っていてもらおうかな? 哲司君からのお土産みたいなものだしなぁ。」
哲司の姿を見たおじさん警察官が言う。
「う、うん。」
哲司は、すぐのことだと思って、その小皿を手にした。
「哲司、丸子ちゃんは恥ずかしがり屋だから、最初はゆっくりと近づけよ。
でないと、嫌われるからな。」
祖父がそう言ってくる。
「大丈夫だろ。あの子は、結構メンクイだしな。哲司君ほどの美男子だと、すぐに尻尾振ってくるんじゃないか?」
「だったら良いんだが・・・。」
「じゃあ、少し早いが、行くか。
どうも、哲司君がお待ち兼ねのようだし・・・。」
「おう、済まんな、余計なことを頼んだりして・・・。」
「いやいや、これも警察の重要な仕事だ。地域の住民が互いに信頼しあうってことが防犯にゃあ何よりだしな。」
大人ふたりが哲司の頭の上で会話をする。
「じゃあ、哲司、裏に回って靴を履いて来い。」
「う、うん。」
祖父にそう促されて、哲司が裏へ駆け出す。
「おいおい、家の中を走るもんじゃない!」
「は~い!」
そうは言うものの、哲司の足は少し緩まっただけだった。
哲司は、履き慣れたズック靴を履いて走って前庭へと戻ってくる。
「じゃあ、よろしくな。」
祖父がおじさん警察官に向かって言う。
「おう・・・。」
おじさん警察官が敬礼をしてそれに答えた。
そして、鞄を肩から提げて庭を出て行く。
哲司がその後ろを付いていく。
もちろん、握り飯が乗った小皿を両手で持ってだ。
「よいしょ!」
おじさん警察官がそう声を掛けたかと思うと、哲司の身体はいとも簡単に自転車の荷台に乗せられていた。
何とも力持ちである。
「足をここに乗せてな。で、ここを両手で持っていてくれ。」
おじさん警察官は哲司の身体の位置をひとつひとつ指示してくる。
哲司も、言われるとおりにする。
それが嬉しくて仕方が無い。
(つづく)