第7章 親と子のボーダーライン(その214)
「そ、そりゃあ、構わんが・・・。帰りはどうする? ひとりじゃあ帰れんぞ。」
おじさん警察官は祖父と哲司の顔を見比べるようにして言う。
「遠いの?」
「そうだなぁ、ここからだと2キロはある。」
「2キロ?」
そう言われても、哲司にはその距離が実感として伴わない。
「そうだなぁ・・・、子供の足だと、30分ぐらいは掛かるぞ。」
「ええっ! そ、そんなに?」
哲司は困った。
言い出したものの、慣れていないこの田舎で、30分も歩く距離だとすれば、恐らくは道に迷うだろう。
近所だと言うから、もっと近いところだと思っていたのだ。
都会では、近所と言えば、せいぜい徒歩10分である。
「よし! じゃあ、哲司、連れてってもらえ。1時間ほどしたら、爺ちゃんがチヒロ婆さんの所まで迎えに行ってやるよ。
その代わり、そこの家にじっとしてろよ。」
祖父がそう言ってくれる。
「う、うん、分かった。」
哲司は飛び上がるほど嬉しかった。
どうしてそこまで思うのかは、自分でも分からなかった。
「よ~し、そう言うことなら、連れて行ってやるよ。
哲司君は、自転車の後ろには乗れるよな?」
おじさん警察官が訊いてくる。
「う、うん・・・、それは大丈夫だよ。落っこちないように乗れる。」
「じゃあ、乗せてってやる。ただしだ・・・。」
「ん?」
「おじさんは、仕事で回っているんだから、その丸子ちゃんの家に行くまでに、もう2箇所ほど立ち寄るところがある。
それには、付き合ってもらうぞ。」
「う、うん・・・。」
哲司は、何かワクワクしてくる。
何しろ、警察官の自転車に乗せてもらうのだ。
おまけに、仕事に付いて行けるのだ。
1度で良いからパトカーに乗ってみたいと思う哲司には、それに近い感覚があった。
「じゃあ、そういうことで・・・。哲司、今のうちに小便だけしておけ。」
祖父が言ってくる。
「ん? ど、どうして?」
「他人様の家に初めて行って、憚りを借りないで済むようにだ。」
「ハバカリって?」
「便所のことだ。」
「ああ・・・、そうなんだ・・・。わ、分かった。」
哲司は、その足で裏庭へ出てトイレに行く。
用を足しながら、哲司は丸子ちゃんという犬の姿を想像していた。
その頭には、テレビか何かで見たレスキュー犬が描かれていた。
(つづく)