第7章 親と子のボーダーライン(その213)
「じゃあ、これ。」
祖父が小皿に乗せた握り飯を持って来て言う。
ちゃんとラップが掛けられていた。
「ほい、確かに。相変わらず、美味そうな握り飯だなぁ・・・。」
おじさん警察官が言う。
自分は愛妻弁当を食べているのにだ。
哲司は可笑しくなる。
「明日からは、この哲司が握り飯を作ってくれることになっとる。」
祖父が楽しそうに言った。
「おお、そうか・・・。哲司君の握り飯、今度、おじさんにも食べさせてくれ。」
「う、うん、良いよ。それより、そのおにぎり、誰のところに持っていくの?」
哲司は、それを誰が食べるのかが気になっている。
「今言ったろ? 丸子ちゃんだ。
チヒロって言うお婆さんがいてな。その家にいる犬だ。」
おじさん警察官が説明をしてくれる。
「ええっ! 犬なの?」
「ああ・・・、でもな、この犬、誰も教えていないのに、ちゃんとお婆さんの介助をするんだ。偉いだろ?」
「カイジョって?」
「そのお婆さん、もう歳で、殆ど寝たきりなんだ。」
「ひとりで住んでるの?」
「ああ、そうだ。だからな、その丸子っていう犬がいろんなことをやるんだ。
お婆さんの具合が悪くなって誰かを呼びたいとき、その犬が近所の家に駆けて行ってワンワンって吼えるんだ。
もう、何度、あれで命が助かったことか・・・。
丸子ちゃんがいなかったら、お婆さん、もうとっくに死んでただろうな。」
「す、凄いワンちゃんなんだ・・・。」
哲司はその犬に会ってみたくなる。
「で、でも、だったら、ご飯なんかは誰が作ってるの?」
哲司は、ひとりで住んでいるというお婆さんのことが気になってくる。
祖父とイメージが重なるからかもしれない。
「お婆さんの食事は、介護ヘルパーさんが来て作ってくれるらしい。
でもなぁ、その丸子ちゃんの分まではなかなかなぁ・・・。」
「じゃあ、ワンちゃんのご飯はないの?」
「お婆さんが自分の分を分けているようだ。
でも、それだけじゃあ足らないだろ?
だからな、こうして周囲の家が、何か余り物が出たら持っていってやるんだ。
都会じゃ考えられんことなんだろうが、この村じゃ、そうして皆が助け合っているんだ。」
「そ、そうなんだ・・・。」
哲司は、ますますその犬に会ってみたくなる。
「僕も、付いていったら駄目?」
哲司がとうとうそう切り出した。
(つづく)