第7章 親と子のボーダーライン(その211)
「あははは・・・。これが気になるか?」
警察官のおじさんは哲司の視線に気が付いたようだった。
縁側に腰を下した姿勢のままで、腰の拳銃ケースに手を触れる。
「そ、それ、本物?」
哲司がとんでもないことを訊く。
「あははは・・・。もちろん、本物だ。」
「玉も入ってるの?」
「ああ、ちゃんと入ってる。撃とうと思えば、いつだって撃てるんだ。
そうしておかなきゃ意味が無いからなぁ。」
「へぇ~・・・。」
「おじさん、それ撃ったことあるの?」
これまた哲司は興味深そうに訊く。
拳銃ケースとおじさんの顔を見比べるようにしている。
「もちろんだ。何度も練習しなきゃいけないしな。」
「れ、練習?」
「ああ・・・、なんでもそうだろ? 野球でも、サッカーでも、毎日の練習が大切だ。
日頃からちゃんとした練習をしておかなきゃ、いざと言うときに上手く出来ないだろ?」
「う、うん・・・・・・。」
「まぁ、野球なんかと違うのは、練習以外で使わないで済むことが一番なんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「どうだ? 哲司君も、大きくなったら警察官にならんか?」
「ええっ・・・。」
哲司は答えられなかった。
「あははは・・・。それも良いかもな。
この子は、結構、運動神経は良いようだしなぁ。」
祖父が麦茶を入れたコップを持ってきて言う。
「ぼ、僕でもなれる?」
哲司は、今度は祖父に訊く。
「ああ、もちろんだとも。
警察官の仕事は、いつの時代でも大切なものだしな。
哲司がその気で頑張れば、きっと良い警察官になれるだろうよ。」
「・・・・・・。」
哲司は、改めておじさんの凛々しい制服を見つめる。
「そうだな、爺ちゃんの言うとおりだろうな。
おっちゃんも農家に生まれたんだが、兄弟が多くってな。
とても田んぼを分けてもらえる状況じゃなかった。
で、たまたま駐在所に張ってあった警察官募集のポスターを見て、そうだ、これになろうって思ったんだ。
あれは、確か小学校6年生のときだったかなぁ・・・。
皆に必要とされてる仕事だって思ってな・・・。」
警察官のおじさんは、持っていた鞄からノート型の弁当箱を取り出しながらそう言った。
そして、その弁当箱を開ける。
(つづく)