第7章 親と子のボーダーライン(その210)
「こんちわ! 爺ちゃん、いるかい?」
その時だった。表から祖父を呼ぶ声がした。
「おう、暑いのに、ご苦労なこって・・・。」
祖父がそう言って立ち上がる。
声だけで、来訪者が誰なのかが分かるようだった。
祖父が縁側へと出て行く。
そして、振り返って哲司を手招きする。
「今は孫の哲司が来ててな・・・。」
「おうおう、そうだったのかい。そりゃあ良いわなぁ・・・。」
そうした会話の中へと哲司が出て行く。
「こんにちわ。」
哲司は意識して丁寧な挨拶をした。
何より、その来訪者が警察官の制服を着ていたからだ。
「おお・・・、哲司君、大きくなったなあ・・・。
と言っても、おじさんのことは覚えてないだろけど。」
「あれは、まだこの子が幼稚園の頃だったしなぁ・・・。覚えちゃいまい。」
「・・・・・・。」
哲司は答えられなかった。
「ひとりで来たのか?」
「・・・・・・。」
哲司は、黙って首を横に振る。
どう説明をして良いのか分からなかったこともある。
「いや、法事のついでだ。娘は帰ったが、この哲司だけが残ってくれたんだ。」
気を利かせたのか、祖父がそう補足してくれる。
「そうか、そうだったんたか・・・。
何年生になったんだ?」
「3年生。」
「おお、そうか、もう3年生か・・・。道理で、おじさんも年取るはずだぁな。」
「何時までそんなところに立ってるつもりだ?
暑いんだから、こっちにあがりなよ。今、麦茶出してやるから・・・。」
「おお、いつも済まんな。」
「いやいや、こっちも毎週訪ねてもらってありがたいと思っとる。
今日はたまたま哲司がいてくれるが、いつもはひとりだしな。
話し相手は嬉しいもんだで・・・。」
「これも仕事の一環だしな・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は大人ふたりの会話を黙って聞くだけになる。
それでも、このふたりが相当に親しい事だけは感じられる。
「哲司君はいつまでいるんだ?」
警察官が訊いて来る。
「う~んと・・・、まだ分からない。」
やはり哲司は緊張して答える。
その視線の先には、警察官のおじさんが付けている拳銃があった。
(つづく)