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第7章 親と子のボーダーライン(その209)

「う~ん・・・、なりたいと言う以上は嫌いじゃあなかったんだろうな。

でもな、そう思った原点、つまりは出発点は、どうやら婆ちゃんの存在だったらしいんだな。」

「お婆ちゃん?」


「ああ、そうだ。

さっきも言ったとおり、婆ちゃんがこの家の主婦だった頃は、家事に農作業にと忙しすぎる生活をしとった。

そんなある日、母親参観日ってのがあった。」

「参観日?」

哲司にも苦い思い出ばかりがある学校行事だ。


「小学校の時には殆ど参加できてなかったんだが、中学校での最初の参観日だったんで、婆ちゃんも2時間だけって予定で初めて参加したんだな。

そうしたらな・・・。」

「そうしたら?」


「哲司のお母さんは、ビックリすると共に、婆ちゃんのことを可哀想に思ったらしいんだ。」

「可哀想? ど、どうして?」

「他の子のお母さんと比べて、綺麗じゃなかったし、とても疲れたように見えたらしい。」

「・・・・・・。」


「婆ちゃん、急いで行ったもんだから、化粧ひとつしていかなかったんだ。

そうしたこともあったんだろうな。」

「・・・・・・。」

「でな、お母さんは、自分がもう少し手伝いをすれば・・・って思ったそうだ。

そして、婆ちゃんにちゃんとしたお化粧をしてあげたいって思ったらしいんだ。」

「そ、それで、美容師さんに?」

「ああ・・・、どうもそうだったらしい。」

「・・・・・・。」


「それからだな。お母さんは勉強も懸命にするようになったし、それまで以上に家事の手伝いを自分からするようになったんだ。」

「へぇ~・・・、そうだったんだ・・・。」

哲司は、母親の顔を思い浮かべる。



「婆ちゃんも中学しか出てなかったし、3人の娘に勉強を教えてやることなんてなかなか出来なかったんだが、それでもな、そうして懸命に家族のために働く姿を見せることで、子供の自立を促したんだ。

それが、さっき言った“親としての背中を見せる”ってことなんだな。

分かるか?」

「う、うん・・・、何となく・・・。」


「それなのにだ・・・。」

「ん?」

「そのお母さんが、哲司には、自分の背中を見せていない。」

「・・・・・・。」

哲司は、祖父の言葉の意味が分からない。


「それも、そういう時代だからと言う人もいるが、やはり親が本音で子供と向き合うことを避けているように思えて仕方が無いんだ。

爺ちゃんからすればな・・・。」

祖父は湯呑のお茶を飲み干してそう言った。



(つづく)




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