第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その19)
「ところがですね、あの子の口からその名前が出たのだと義兄は言うのです。
それも、どうやらコンビニで知り合ったのだと。」
店長は、また改めて哲司の顔を覗き込むようにする。
「で、でも、あの時は、僕と奈菜ちゃんは顔を知っている程度で、とてもそんな・・・」
哲司はそう説明をする。
説明をしながら、そんなことは店長も知っているでしょう?と心の中で思う。
「もちろん分っていますよ。貴方とあの子が知り合ったのは、例の釣銭を間違ったことがきっかけなんですから、その時点で既に妊娠はしていたのですからね。
まあ、私が知らないところで、別の繋がりがあったのであればそれは別ですが・・・。」
店長も笑って話してくる。
「だったら・・・・・・・。」
哲司は、それが分っているのであれば、どうしてきっぱりと彼は無関係だと義兄に言ってはくれないのか?と単純に腹が立つ。
「ですから、私も義兄には、うちのバイトをはじめてからではないでしょう。時期的に考えても、それ以前の話ですよ、と言ったんです。
でもねぇ、あの子がそう言っていると言って聞かないんですよ。
その辺りが、やはり父親なんですねぇ。
どうしてでも、その相手の男を捕まえたいと思っているようでしたから。」
「でも、まさか奈菜ちゃんが僕のことを名指ししたつもりじゃあないんですよね。
そんな筈はありませんよね。」
哲司は何となく不安になってくる。
もちろん、妊娠するような行為どころか、まだ手さえも握ったこともなかったのだから、奈菜本人がそんなことを言う筈はないと信じたかった。
だが、先ほど、店長が言った「謝らなければならないことがある」というのが引っかかっていて、もしかしたら、嘘をつくのに困って、思いつき俺のことを持ち出したのかもしれないという疑問も沸いてくる。
「・・・・・ごめんなさいね。・・・・・どうやら、おっしゃるとおりのことになっているようなのです。」
店長は、また窓の向こうに見える自分の店に視線を走らせた。
「ですから、さきほど、誰かを父親に仕立てたかったようだと申し上げたんですが。」
「ええっ!・・・・・それって、無茶苦茶な話ですよ。
僕は知りませんよ。そんなことに名前を勝手に使われても・・・・・・。
義兄さんに聞かれたら、ありのままを正直に言いますよ。
手も握ったこともないし、ましてや妊娠に至るような行為などはしていませんと。
その時には、店長にもちゃんとフォローしてもらいますよ。
事実無根なんですから。」
「もちろんですよ。
でもね、ここで少しだけ考えてやってほしいことがあるんです。」
店長が、改めて哲司に頭を下げるような格好をする。
哲司は、何かしら、嫌な予感がしてきていた。
(つづく)