第7章 親と子のボーダーライン(その206)
「だから、そうした8人家族が居る家事ってのは、そりゃあ大変だった。」
「・・・・・・。」
哲司は、その意味はもうひとつ分からない。
「考えてもみろ? 料理だって、8人分作るんだぞ。
哲司の所の3倍近いもんだ。
しかもだ、毎日だ。」
「・・・・・・。」
哲司は、母親が台所に立っている姿を思い浮かべる。
「それにな、年代が違うだろ?」
「ねんだい?」
「つまりはだ、哲司の曾曾婆ちゃんを入れるとだ、その時でも4世代いたんだ。
上は80代で、下は保育園だ。
同じ食べ物で良い訳は無いだろ?」
「・・・・・・。」
「哲司の家でも、お父さんしか食べないものもあれば、哲司しか食べないものが出てくるだろ?」
「ああ・・・、そうだね・・・。」
哲司は、家での食卓を思い出す。
哲司にはチキンライスが出ても、父親は白いご飯だったりする。
父親に酢牡蛎が出ても、哲司には牡蠣フライが出された。
母親が、作り分けてくれていた。
「爺ちゃんの家じゃあ、それが4世代だからな。
食い物も、それなりに工夫しとった。
年寄りは肉はあまり食べないが、子供はそうは行かん。育ち盛りだしな。
曾曾婆ちゃんは、もう殆ど歯がなかったから、硬いものは食べられん。
したがって、同じ料理でも、曾曾婆ちゃんの分だけはより柔らかく料理する。
そうした配慮が必要だったんだ。」
「・・・・・・。」
「洗濯だって、そりゃあ8人分と言えば凄い量だ。
爺ちゃんが若い頃は、洗濯機が家になくってな。
哲司がさっき使ったろ? あんなタライを使って洗濯をしてたんだ。
しかもだ、毎日天気ばっかしは続かない。雨の日もある。
そうすれば、その日は洗濯出来ないから、その翌日になる。
とだ、その翌日は洗濯物の量が2倍になる。」
「・・・・・・。」
哲司は、あのタライで洗濯をする辛さは何となく分かるように気がした。
何とも不安定な姿勢になるからだ。
竹を洗っていて、何度も腰が重く感じられた。
「おまけに、婆ちゃんは、爺ちゃんと一緒に畑や田んぼに農作業にも行ってたんだ。
そりゃあ、家庭の主婦ってのは、凄い仕事をこなしていたんだぞ。」
「・・・・・・。」
「だからな、家族の皆が協力をするんだ。」
「ん? 協力って?」
「子供は自分が出来る手伝いをする。
買い物、掃除、乾いた洗濯物の取り入れ・・・。そうしたことをだ。
哲司は、家で、そうしたことをやってるか?」
「・・・・・・。」
哲司は黙って首を横に振るだけになる。
(つづく)