第7章 親と子のボーダーライン(その205)
曾曾婆ちゃんと言われても、哲司にはまったく概念が無い。
そもそも、その曾爺ちゃん、曾婆ちゃんすらもイメージが無い。
哲司は会ったこともない。
「そ、そうだなぁ・・・。」
祖父は、困惑する哲司の顔を見て、「仕方あるまい」と言うような顔をする。
「哲司は、曾婆ちゃんを覚えてないか?」
「えっ! ひい婆ちゃん?」
「ああ・・・。でも、無理か。哲司が確か3歳の時だものなぁ・・・。」
「な、何が?」
「その曾婆ちゃんが死んだのがだ・・・。」
「し、死んだ?!」
哲司は、その言葉に思考が止まる。
哲司にとって、誰かが死ぬというのは、祖母が病気で亡くなったことに直結する。
それでも、そう強いインパクトがあったものではなかった。
ただ、両親から「お婆ちゃんが病気で死んだ」と聞かされただけだった。
死に顔も見てはいなかった。
「ああ・・・、人間は、そうしていつかは死んでいくんだしな。」
「だ、だったら・・・、爺ちゃんも?」
「も、もちろんだ。そして、いずれは、哲司のお父さん、お母さんもだ。」
「そ、そんなの・・・嫌だ!」
「あははは・・・。嫌だと言ってもなぁ・・・、こればっかしは・・・。
だからこそ、人間は、生きている限りは働くべきなんだ。
それが、人間としての役割であり、責任でもある。」
「・・・・・・。」
哲司の耳には、もう今の祖父の言葉は殆ど聞こえてはいなかった。
一種のショック状態である。
「だからな、家族って言うのも、その時々で、その人数も変わっていくんだ。」
「・・・・・・。」
「哲司の所だって、最初から3人の家族ではなかったんだよな。」
「ん?」
「最初は、お父さんとお母さんが結婚をして、新しい家族となったんだ。
つまりは、今までいたそれぞれの家族から離れてだ。
だから、最初は2人だな。そこに、哲司が生まれてきた。
それで家族が3人になった。
そういうことなんだな。」
「う、うん・・・、そうだね。」
「その時、つまりはお父さんとお母さんが結婚をして新しい家族となったときにはだ、ここの家の家族がひとり減ったんだな。」
「ど、どうして?」
哲司は、そうなる理由が分からなかった。
「そりゃあ、そうなるだろ? それまで一緒の家族だった哲司のお母さんが、この家から離れたんだしな。」
「ああ・・・、そうか・・・。」
そう説明をされて、何とか納得をする哲司である。
(つづく)