第7章 親と子のボーダーライン(その204)
「確かに、今の家事というのは簡単になった。
ご飯は炊飯器、料理は電子レンジ、洗濯は洗濯機、掃除は掃除機、そして保存は冷蔵庫だ・・・。
そうした便利な機械が沢山出来たからなぁ・・・。
哲司の家にも全部あるだろうし、使ってるだろ?」
「う、うん。」
哲司は、家にあるものをひとつずつ頭に思い浮かべて答える。
「それに、買い物だってそうだ。
昔は、魚は魚屋さん、肉は肉屋さん、野菜は八百屋さん、お菓子はお菓子屋さん・・・って、あちこちの店を回らなければ欲しいものが手に入らなかった。
だから、昔のお母さんは、重たい荷物を持ちながら、それだけの店をぐるっと回って買い物をしたんだな。
しかも、冷蔵庫が無い時代は、それを毎日行ってたんだ。
そう、雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も・・・。
それだけ、時間も掛かったし、体力も必要だった。
ところがだ。今はスーパーマーケット1箇所で、その殆どが買えてしまう。
おまけに車だろ?
これを使うと、どれだけ沢山の買い物があったとしても、殆ど力は必要が無い。」
「・・・・・・。」
「それにだ。何より違うのは、家族の人数だな。」
「人数?」
「哲司の家の家族は何人だ?」
「ん?」
哲司は面食らった。
そんな分かりきったことを訊かれるのか不思議だった。
「だから、哲司の家族は何人だと訊いてるんだ。」
「さ、3人・・・。」
「そうだな。お父さんとお母さんと、そして哲司だな?」
「う、うん・・・。」
「哲司のお母さんがまだ子供だった頃。そう、今の哲司ぐらいの時には、この家の家族は8人だった。」
「ええっ! 8人? そ、そんなにいたの?」
哲司はビックリする。
今住んでいる街で、大家族だと言われる家でも5人ぐらいだ。
8人の家族と言われても、まったく想像も付かない。
「ああ、まずは爺ちゃんと婆ちゃんだろ?
それに娘ばかりの3人の子供だろ? このうちのひとりが哲司のお母さんなんだな。
そしてだ、爺ちゃんの父さん母さん、つまり哲司から言えば、曾爺ちゃんと曾婆ちゃんだ。」
「そ、それで7人だよね?」
哲司は、指を折って数えていたから、まだひとり足りないのに気が付いていた。
「おう、そうだな。それから、爺ちゃんの婆ちゃんがいたんだ。」
「爺ちゃんの婆ちゃん?」
哲司の頭が付いていかない。
「う~ん・・・と、哲司から言えば、曾曾婆ちゃんってことになるか・・・。」
「・・・・・・。」
哲司の頭の中が真っ白になる。
(つづく)