第7章 親と子のボーダーライン(その202)
「それだったら、ワンパクってのも、良いことなの?」
哲司は果然元気が出る。
祖父が「そうだ!」とさえ言ってくれたら、周囲からどう言われようが胸を張れると思う。
それこそ、コマーシャルで言っている「ワンパクでも良い!」が素直に聞ける。
「う~ん、際どいなぁ~?」
「キワドイって?」
「どっちとも言えないってことだ・・・。
今も言ったように、ふたつの意味があるからな。
将来、大物になるって意味だと良いことなんだろうが・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、いささかガッカリする。
「でもな、大人しい子だと言われるよりは、はるかに子供らしくって良い。
爺ちゃんはそう思う。
今は、大人の眼から見て、大人しくて従順な子供を歓迎する風潮があるが、それだからいろんな問題が起きている。」
「・・・・・・。」
「元来、子供というものは、親の背中を見て育つもんだ。
だが、近頃は、その子供に親が背中を見せられなくなっとる。」
「ん? 背中って?」
哲司は、祖父の言っている意味がよく分からない。
「つまりはだ、生き様だ。
・・・と言っても、哲司にゃあ分からんか・・・。」
祖父は少し考えるような顔をする。
きっと、哲司にも分かるようにするためには、どんな言葉を使ったら良いのかを考えてくれているのだろう。
「要はだ。親が、自分が働いているところを子供にしっかりと見せられてはいないってことだな。」
「働いているところ? それって、お父さんの会社ってこと?」
「う~ん、それも含めてだ。
働くってのは、何も職業としてだけじゃあない。
お給料を貰う事が働くってことでもない。
その点を間違っちゃあいけないんだぞ。」
「?」
「だったら聞くが、哲司のお母さんは働いてないのか?」
「う~ん・・・。」
哲司は、何と答えるべきかを迷う。
「今は、夫婦共稼ぎが多いんだろ? つまりはだ、お父さんもお母さんも仕事に行っている家庭の子が多くなってるんだろ?」
「う、うん・・・、そうだね。学童の子も多いし・・・。」
哲司の頭には、学校が終わってから「学童保育」へと向かう友達の姿が浮かんでいる。
「それでも、哲司はその学童に入ってないんだろ? どうしてなんだ?」
「そ、それは・・・、うちは、お母さんが働いていないから・・・。家にいるから・・・。」
哲司は、そう言いながらも、どこか違うように気がしてくる。
(つづく)