第7章 親と子のボーダーライン(その201)
「ぼ、僕って・・・、ワンパク?」
哲司は、強いて言うならば、自分もそう言われても仕方が無い子供だと思っている。
それでもだ、面と向かって「お前は腕白坊主だ」と言われたことはなかった。
「ああ・・・、そうだろ?」
祖父は、当の本人からそう訊かれた事に怪訝な顔をする。
「ど、どうして?」
哲司は、その「腕白」という言葉の真の意味を知らないから、そう問い返す。
祖父であれば、その辺りも、哲司が理解できるように教えてくれそうだと思ったからだ。
「ん? 哲司は、自分じゃあ、そうは思ってないのか?」
「だ、だって・・・。そのワンパクって言うのが分からないもん。」
「あははは・・・、なるほど、だったら一理あるな。」
「イチリって?」
「理屈が通っていて、納得できるってことだ。」
「・・・・・・。」
「じゃあ、哲司はその腕白ってのは、どういうことだと思うんだ?」
「う~ん・・・、そう言われても・・・。
で、でも・・・、テレビで“ワンパクでも良い”って言ってるでしょう?
だから・・・。」
「ああ・・・、なるほどなぁ・・・。」
祖父は、どうしてか頬っぺたを大きく膨らますようにする。
哲司が言ったテレビのコマーシャルを知っているのだろう。
「腕白って言うのはな・・・。」
「う、うん。」
「意味としては、大きく分けるとふたつある。」
「ふ、ふたつ?」
「ひとつは、我侭を言ったり、悪戯や悪さをする子供のことを言う。」
「・・・・・・。」
哲司は、なぜかしらドキッ!っとするものを感じる。
きっと、周囲から言われているのは、そういう意味なんだろうと思う。
ただ、それを肯定するだけの自覚は無い。
「そして、もうひとつは・・・。」
「う、うん・・・。」
哲司は、祖父が言うもうひとつの意味に期待する。
「活発に動き回る子供ってことだ。」
「ん?」
哲司は意外に感じた。
それならば、良い意味でも悪い意味でも使えるんだと思う。
「しかもだ、頭が良いんだな。つまりは、知恵が回るってことだ。」
「ん?」
「昔、天皇が国を治めていたとき、その傍にいて、いろいろと政治や経済について調査をしたりアドバイスをしたりする役職に“関白”って言うのがあった。
つまりは、天皇に次ぐナンバー2だな。」
「カンパク?」
「その関白が訛って、腕白になったと言われてる。」
祖父は、聞いている哲司の顔をじっと見ながらゆっくりと話してくる。
(つづく)