第7章 親と子のボーダーライン(その200)
「お客さんって?」
哲司には、その言葉がこの家には不釣合いのように思えた。
哲司の家にも、一応は「客間」と両親が呼ぶ部屋がある。
殆ど家具らしきものが置いてなくて、中央にテーブルがひとつあるだけの部屋だ。
「お客様が来られたときに使うのだから」と聞かされていたが、実際にその部屋が使われるのは、それこそ正月とお盆の季節ぐらいで、後は開かずの部屋のようになっていた。
つまり、「お客」と言われる人が来ることは滅多になかったということだ。
それなのに、祖父は「お客さんがくる」と言い、おまけに「握り飯を土産にする」と言ったのだ。
「そんなことがあるのだろうか?」
それが哲司の実感である。
「駐在さんが来る予定なんだ。」
祖父がお茶を飲みながら答えてくる。
そして、時計に視線を送る。
「チュウザイさんって?」
哲司は、それが誰だか分からない。
「う~ん、警察官だな。」
「えっ! け、警察官? な、何しに来るの?」
哲司の頭には、パトカーから飛び出してくるテレビドラマの警察官の映像しか浮かばない。
皆、腰に拳銃を付けている。
「あははは、別に、哲司を捕まえに来るんじゃあない。
それとも何か? 哲司は警察官が苦手なのか?」
「べ、別に・・・、そういうことじゃあ・・・。」
「爺ちゃんは、いつもひとりだろ? だから、週に1回、様子を見に来てくれるんだ。」
「へぇ~、そ、そうなんだ・・・。」
「でな、うちの縁側で、弁当を食べるんだ。」
「ど、どうして?」
「あはは・・・、そりゃあ、警察官だって、腹が減ったら飯も食うさ。」
「だ、だからって・・・、どうしてここで食べるの?」
「爺ちゃんの友達だからだ。」
「えっ! 警察官がお友達なの?」
「ああ、そうだ。いわば、息子みたいなもんだな。」
「むすこ・・・?」
祖父の子供は女ばかりだ。
そのうちのひとりが、哲司の母親である。
「警察官と言っても都会に沢山いる警察官と違ってな、駐在、つまりはこの村に住んでるんだ。
つまり、都会で言えば、交番に住み込んでいる警察官みたいなものだ。
だから、もともと地元の人がなる場合が多いんだな。」
「じゃあ、そのチュウザイさんも?」
「ああ、そうだ。子供の頃からよ~く知ってる。
哲司と同じで、腕白な子供だった・・・。」
祖父は、哲司の顔を見て笑う。
(つづく)