表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/958

第1章 携帯で見つけたバイト(その6)

「これからバイトが始まるってのに、そこの責任者に刃向かってどうすんだよ。

外しゃあいいんだ。別に取り上げるって言ってるんじゃねぇしよ。

それを、シカトなんかしやがって。

ホント、お前、馬鹿だぜ。」

音楽に合わせてピョンピョン飛び上がる動作をしながら、目の前の光景を横目で見るようにする。

「まぁ、こいつがどのように思われようと、俺にゃあ関係ないけど。」

哲司は、冷たい視線を前の男に送っている。


現場責任者が哲司の傍に来た。

「俺はネックレスもしてねぇし、文句はあるまい?」

そうは思うのだが、先ほどから気になっていた頭のてっぺんからつま先までを舐めるようにしてジロジロ眺められるのは嫌だった。

なんだか、鳥肌が立つ。


哲司はできるだけ目を合わさないように意識をする。

先ほどまではキョロキョロしながらしていた体操だが、この現場責任者に寄られてからはまっすぐ前を向いて「まじめそうに」やっている。

いや、そのつもりだった。


「君は、巽哲司君だよな。」

責任者が名簿らしき紙切れを見ながら言う。

「おいおい、どうして俺だけはフルネームで呼ぶんだ?

苗字だけでいいだろうによ。」

ビルの出入り口の近くにまで追いやられて、おまけにそこでこうしてラジオ体操までさせられている。

カッコ悪いと言ったらありゃしない。

通りかかる女の子達の視線が気になって仕方がない。


「それなのによ。そのうえに、俺の名前を大きな声で言いやがって。どういうつもりだ?

俺に恥をかかせようって言うの?」

哲司は一瞬だが、その現場責任者の顔を睨むように見た。

「ここで舐められてたまるか!」という気持だ。


「明日からも来てくれるんだよな。よろしく頼むぜ。」

現場責任者は、そう言って片手をヒョイと挙げてまた先頭のところへと戻っていった。

哲司は何を言われたのか、理解するのに多少の時間を要した。


丁度そこでラジオ体操が最後の「深呼吸」へと移る。

今までの体操で多少は弾んでいた息を落ち着かせる役目を果たす動作だ。

哲司も「これで終わり」と思うから、その動作をしながらも「ほっとする」瞬間を迎えた。


「明日からも・・・って。

と言うことはだ、あの現場責任者とは、明日も一緒かい!」

ようやく落ち着いてきた頭で整理する。

だが、そのことを喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかの判断はつかない。


「どっちにしたって、今日のバイトをやってみてからのことだ。」

哲司は複雑な思いの中で、そう呟いた。



(つづく)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ