第7章 親と子のボーダーライン(その198)
哲司は、本音を言えばこの場でそのアニメが何であるかを知りたかった。
同じテレビなのに、家で見る番組とは大きく違っていたからだ。
それでも、それは祖父に訊けなかった。
訊いても、正確に教えてもらえなさそうに思えた。
「じゃあ、そろそろ仕上げにするかな?」
祖父は、そう言って大皿から1個の握り飯を取った。
「ん? シアゲって?」
哲司は、そんな具材があるのかと思ってしまった。
「これでお仕舞いにするってことだ。だから、最後の1個はこれなんだ。」
「そ、それは?」
「あはは・・・、気になるのか?」
「べ、別に・・・、そういうんじゃないけど・・・。」
「心配するな、これは、哲司が一番最初に食ったのと同じものだ。」
「ん? 一番最初に? ってことは・・・、梅干?」
「そうだ。爺ちゃんは、これが一番好きでな。」
「ふ~ん、そうなんだ・・・。」
「哲司は、好きなものは最後に取っておく方か? それとも、先に食ってしまう方か?」
「う~ん、後に残しておくかな? その方が楽しみだし・・・。」
「そうか、楽しみ・・・か。」
祖父は、何かを言いたげにしたが、結局はそこまでしか言わなかった。
「さあ、爺ちゃんはこれで“ご馳走様”だ。」
祖父は最後の一口を口に放り込んでそう言った。
そして手布巾で両手を拭う。
「オッ、でも、哲司は慌てなくて良いぞ。ゆっくりと良く噛んで食べろ。」
そう言ってお茶をうまそうに飲む。
「僕がまだ食べてないのはどれ?」
哲司は、先ほど確保したウインナーソーセージを握ったものは置いておいて、次のものを食べようと思って訊く。
ウインナーは最後に取っておくつもりだった。
「う~ん・・・と・・・。」
祖父は、大皿の中をじっと見て、「これだな」と指を指す。
「これ? これって?」
「そいつはちりめんジャコだ。カルシュームがたっぷりだから、食っておけ。」
「う、うん。」
哲司は、言われたものにかぶりつく。
「う、うん、これも美味しい。ちょっと、トゲトゲしてるけど。」
「あははは・・・、トゲトゲか・・・。」
祖父は、哲司の表現を面白がった。
「それより、食えるのか? もう、かなり食べてるぞ。」
「う、うん・・・、大丈夫だよ。」
哲司は、これがいくつ目の握り飯なのかが分からなくなっていた。
(つづく)