第7章 親と子のボーダーライン(その195)
「ええっ! ・・・いくつって・・・。」
哲司は算数が苦手だ。
いや、算数だけではない。学校の勉強全体が苦手である。
どうして学校なんかに行かなきゃいけないのかって思う。
掛け算なんだ。それぐらいは分かるのだが・・・。
「ええっと・・・。」
哲司は、一応は考える風にする。
考えたからと言って、その答えが自分の頭から出てくるとは思えなかったが、それでも、祖父の手前、考える姿勢だけは見せておかねば・・・と思う。
「掛け算が苦手か?」
祖父はズバリと言ってくる。
「う、うん・・・。」
哲司は照れるように言う。
「7種類掛ける3個ずつだから、7×3で21だ。
つまりは、21個あったんだな。
おお、おっと、忘れるところだった・・・。
さっき台所で握った梅干の1個を足すと22個だ。」
祖父は、哲司が掛け算が出来なかったことを責めたりはしなかった。
「ところで、今、何個残ってるんだ?」
「う~んと・・・。」
哲司は、大皿にある握り飯を1個2個と数えていく。
「11個あるよ。」
「じゃあ、哲司と爺ちゃんのふたりで幾つ食べたんだ?」
「ええっと・・・。」
哲司は、これは引き算だなと思う。
22個から残っている11個を引くと・・・。
「ああ、11個だね。」
「おお、よく出来たな。そうか、ふたりで11個も食ったか・・・。」
祖父は楽しそうに笑う。
「ぼ、僕が4つ食べたんだから、お爺ちゃんが食べたのは・・・。
えっ! 7個?」
「そうだな。爺ちゃんは、今7個目の握り飯を食ってるんだな。」
「わっ! 僕より多い・・・。」
「わははは・・・・。どうだ、参ったか。」
祖父は、自分の食べた握り飯の事ではなくって、こうした会話が孫の哲司と出来ることを楽しんでいるようだ。
「成長盛りの哲司なんだ。沢山食って、沢山身体を動かして、そして大きくなれ。」
「う、うん!」
哲司は、次の握り飯に意欲が、いや食欲が沸く。
「その左端にある奴を食べてみろ?」
「ん? こ、これ?」
「ああ・・・、で、それが何だか分かったら、今晩、テレビ漫画を見せてやる。」
「ん? も、もし、分からなかったら?」
哲司は、一瞬は喜んだものの、逆の場合を考えて防御線を張る。
(つづく)