第7章 親と子のボーダーライン(その192)
「これも昔から言われてる言葉なんだが・・・。」
祖父は、かぶりついた握り飯が喉に詰まりかけたのか、そこで一旦言葉を止めた。
哲司が慌てて祖父の顔を見る。
喉が詰まったのならば、背中を叩いてあげなければ・・・と思ったからだ。
もう少し小さい頃、哲司も同じようにして、祖父や祖母に背中を叩いてもらったことがあった。
だが、どうやらそうではなかったようだ。
祖父は涼しい顔で、口をモグモグさせていた。
そして、これまた大皿に盛ったたくあんを手で抓んで口に入れる。
「“過ぎたるは及ばざるが如し”と言ってな・・・。」
そう言って、哲司の顔を見てくる。
「・・・・・・?」
哲司は何のことやらさっぱりである。
どこかで聞いたことがあるような言葉だが、その意味などは皆目分からない。
「簡単に言うとだ・・・。」
「う、うん・・・。」
哲司は、祖父のこうした話し方が好きだ。
哲司が理解できないと分かると、すぐさまそれを砕いてくれる。
つまりは、哲司でも分かるように言い換えてくれるのだ。
そうした話し方を、両親や学校の先生はなかなかしてはくれない。
「何でも、やり過ぎるってことは、その程度に届かないのと同じで、良いことではないという意味だ。
つまりは、食いすぎは、食べないのと同じってことだ。」
「ん? ど、どうして?」
「良いか? 食い物は仕事をするため、つまりは生きていくために必要だから食べるんだな。」
「う、うん・・・。」
「だが、だからと言って、食いすぎは駄目だってことだ。
結局は、腹を壊して、ピーピーになっちまうだろ?」
「ああ・・・、そ、そうだね・・・。」
哲司は、祖父が言ったピーピーの意味がよく分かった。
それで、苦笑いをする。
「腹を壊して、便所にずっと座っているようじゃ、仕事も何もあったもんじゃない。
な、そうだろ?」
「うんうん・・・。」
「物には、ほどほどってのが大切ってことだ。
その節度を守れんから、メンタボって言うのか? ブクブク太ってくるんだ。」
「爺ちゃん、それ、メンタボじゃなくって、メタボでしょう?」
「おお・・・、哲司はよく知っとるなぁ・・・。」
祖父は、そう言ってケタケタと笑った。
どうやら、知っていて、わざと“メンタボ”なる言葉を使ったようだ。
祖父は、ときどき、そうしたお茶目なところを見せる。
食いたいだけ食っても良いけれど、ほどほどにしろよと教えているのだろう。
哲司は、何となく、そう思った。
(つづく)