第7章 親と子のボーダーライン(その190)
「だな。」
祖父は、哲司の予想と違う反応を示した。
てっきり、「いや、それは違う」と否定されると思っていたのにだ。
突っ込んだ筈の哲司が目を丸くする。
「だから、無責任なんだ。我侭なんだ。」
祖父は、哲司のツッコミを肯定した上に、さらに追い討ちを掛けてくる。
「ん? どういうこと?」
哲司は、誰が無責任で我侭なのかと思う。
「いいか? 確かに、飯は口から食う。で、舌で味わう。
だけど、その後はどこに行く?」
「ど、どこにって・・・、ゴックンしたらお腹の中?」
「だろ?」
「ん?」
「食い物は、お腹が、つまりは胃や腸が消化をしてその栄養素を吸収するんだな。
そして、その栄養素を身体全体に配ってるんだ。」
「う・・・、うん・・・。」
哲司は、図鑑か何かで見た、胃と腸の絵を思い出す。
「身体が欲しがるというのは、つまりはその胃や腸が欲しがってるってことだ。」
「・・・・・・。」
「哲司は、腹が空いたらどうなる?」
「ああ・・・、お腹がグウって鳴る・・・。」
「だろ? それは、胃や腸が、お~い、飯を食ってくれって、叫んでるんだな。」
「な、なるほど・・・。」
「それなのにだ。最近の人間は、その胃や腸からの要求も無いのに、勝手に目や口や舌の思うがままに食べ物を食うようになった。
つまりは、身体が要求していないのに、目や口なんかの勝手な判断で食べてしまうようになったんだ。
自分じゃ、消化も吸収も出来ゃしないのにだ。
哲司の友達にもいないか? 何とかチップスとか言う袋に入った菓子をポリポリ食べてる子って。」
「ああ・・・、ポテトチップス? う、うん・・・、いるよ。」
「あれって、一旦、袋を開けると、全部食べてしまうだろ?
そうしないと、気がすまないんだろうな。」
「う~ん・・・、そうなのかも・・・。」
確かに、学校の友達にもそんな子がいる。
道を歩きながらでもそいつを食べてる。
「そのくせ、片方では、食べ過ぎで太ったからって、何とかエットとかいうものをやったりする。
哲司のお母さんも言っとった。」
「あああ・・・、それって、ダイエットでしょう?」
哲司は、母親の口癖をいつも耳にしていた。
「だから、無責任で我侭だと言うんだ。そんな食べ方をする人間のことを。」
祖父は、少し怒ったような顔でそう言い切る。
「じゃ、じゃあ・・・、僕は? こんなに食べるのは駄目? 我侭?」
哲司は、勢いに任せて食べている4個目の握り飯を見つめる。
オカカの味が、喉に引っかかりそうになる。
(つづく)