第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その17)
「それで、どうされたんですか?」
哲司は、一歩引いて、できるだけ冷静な気持で聞こうと思った。
「もちろん、その場に呼びつけて詰問しましたよ。
これは、どういうことなのか、ってね。」
「そうしたら・・・・・」
哲司が合いの手を入れる。
「その診察券が見られたことに気がついたのでしょうね。
慌ててその財布を私からひったくるようにして自室へ駆け込んでしまいました。」
「何も言わないで?」
「そうです。非常に怖い顔はしていましたけれど。」
「それで?」
「もちろん部屋まで追いかけましたが、中から鍵をかけてしまって、何を言っても返事もしません。
それで、その日は止む無く帰ってきたんです。」
哲司には、その時の奈菜の顔が想像できない。
「店に戻ってから、あの子の父親、つまり私の義兄に電話をしました。
彼は仕事中でしたから、詳しい事は話せません。
帰りに寄って欲しいと頼んだんです。」
「お父さんは知っていたんですか?」
哲司は、そこが気になった。
店長は、黙って首を横に振った。
「やはりねぇ、あの5年前火事で母親を亡くしてから、どうも家族の中がしっくり行ってなかったようです。」
「だとすると、お父さんも驚かれたでしょうね。」
「そうです。はじめは、私の言う事が信じられない。その診察券も何かと見間違いをしたのではないのか? とまで言ってました。
それでも、私がその病院の名前と所在地を覚えていたので、それを伝えると、義兄は驚いたような顔で、それからは黙ってしまったんです。」
「どうやら、彼の実の妹さん、つまり奈菜から見れば叔母さんにあたる方の家の近くだったようです。
ですから、一度その妹さんに電話をしてみると言って帰りました。」
店長は、そこで珈琲を一口飲んだ。
「でも・・・・・・。
どうして、そんな話を、この僕に聞かすんですか?
どう考えても、よこら辺りがよく分からないんですけど。」
哲司は、これ以上重たい話を一方的に聞かされるのは堪らなかった。
そりゃあ、親しくなりたいと思っている奈菜のことなのだが、そこまでの話しを聞かされる覚えは無い。
第一、奈菜が過去にどんな男を付き合っていたとしても、それは哲司にはあまり関心は無い。
無関心でもないのだが、だからと言って、それを聞いてどうすることもできないのだから、知らないほうが楽な場合もある。
若い男が、若くて可愛い女の子を好きになるのに、そんな昔のことまでを考えることはありえないのだ。
まさか、結婚するのでもないのだから。
(つづく)