第7章 親と子のボーダーライン(その188)
「これは?」
哲司は、今度はかぶりつく前に訊く。
何やら細かく刻まれた薄茶色のものが握りこまれていたからだ。
「ん? それは、筍だ。」
「竹の子?」
哲司は、改めてその握り飯をマジマジと見つめる。
そして、午前中にタライで洗ったあの竹の感触を思い出す。
「旨いぞ。食ってみろ。」
「う、うん・・・。」
哲司は思いっきりかぶりつく。
そして、口の中でその味を探そうとする。
「ああっ、お、美味しい!」
「だ、だろ? でも、その哲司の姿を見たら、お母さんが怒るかもな。」
「ん? ど、どうして?」
哲司は、どうして、そんなところで母親が出てくるのか分からなかった。
「だから、減塩って言ってたんだろ?」
「ん?」
「つまりはだ、哲司に、あんまり塩っ辛いものを食べさせないでくれって・・・。」
「べ、別に・・・、これって、塩辛くはないよ。」
「お母さんが言うのにも一理はある。」
「・・・・・・。」
「つまりは、決して間違いじゃないってことだ。」
「・・・・・・。」
哲司は、どう答えて良いのか分からない。
「食べ物には、いろんな栄養素が入っとる。お母さんが言う塩ッ気、つまりは塩分もだ。
だけどな、それはいずれも必要だから摂ってるんだ。
必要以上に摂れば、つまりは必要以上に食べればそれは摂り過ぎになるが、人間の身体ってのはもともと自分の身体に足りないものを欲しがるように出来てるんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は、またぞろ祖父が難しい話をし始めたと思った。
「哲司、さっき言ってたろ? ここに来ると、沢山食べられるって・・・。」
「う、うん・・・。」
「どうしてだと思う?」
「う~ん・・・、どうして? だって、お腹が空いてるから・・・。」
哲司はシンプルである。
「そこなんだよな。」
「ん? 何が?」
「人間、お腹が空くから飯を食うんだ。でなければ、仕事なんてできゃしないからな。」
「う、うん。」
「哲司が、家だとお茶碗2杯ぐらいしか食わないのに、ここだと、その握り飯だって5個は食う。」
「う、うん。これで、もう3つ目だし・・・。」
「だろ?」
祖父は、また嬉しそうに笑った。
(つづく)