第7章 親と子のボーダーライン(その187)
「そ、そうじゃあないんだが・・・。」
祖父は、握り飯を頬張りながらも、少し難しそうな顔をする。
小学生の哲司にどう説明をしようかと考えているようだ。
「哲司は、漬物を食うのか?」
「う~ん・・・、あんまり食べない・・・。」
「家で、お母さん、食卓に出さんか?」
「そんなことは無いけど・・・。」
「じゃあ、どうして食べない?」
「あんまり好きじゃない。美味しくないし・・・。」
「お母さんが漬けたんだろ?」
「ううん・・・。スーパーで買ってくる奴だし。」
哲司が首を横に振る。
「じゃあ、どうしてその握り飯は旨いんだ? それも、胡瓜の漬物だぞ。」
祖父は、意識してか、大きく首を傾げてみせる。
「う~ん・・・、爺ちゃんところのお漬物はちゃんと味が付いてるし・・・。」
「ん? そのスーパーのやつは?」
「殆ど、味しないよ。まるで、生の野菜を食べてるみたいだし・・・。」
「う~ん・・・、そうか。」
「だから、お父さんは醤油掛けて食べてる。それで、喧嘩になるんだ。」
「喧嘩? 誰と?」
「お母さんと・・・。」
「どうして?」
「な、何か、ゲンエンがどうとか言ってる。」
「あははは・・・。なるほどなぁ・・・。」
祖父は苦笑した。
「だからなんだな?」
祖父は、何かを納得したような顔をする。
「な、何が?」
「いやな、昨日も、お母さんに、爺ちゃんが漬けた漬物持って帰るか? って聞いたら、荷物になるから今回はいいわなんて言って。結局は持って帰らんかった。
その理由が分かったってことだ。」
「えっ! どうしてなの?」
「それはな、爺ちゃんの漬物は塩分が多いからってことなんだろうな。
きっと、テレビか何かの影響で、塩分の取りすぎに注意を払ってるんだろう。」
「・・・・・・。」
哲司は、何のことを言われたのかが分からなかった。
それでも、母親が祖父の漬物を持って帰らなかったことは残念に思った。
こんなに美味しいのに。そう思った。
「漬物は、保存が利くんだ。だから、去年、その胡瓜を収穫したとき、そのうちの何本かは糠床に入れて漬物にしたんだ。
それを今年、こうして取り出してきて食べとる。」
「ヌカドコって?」
「野菜を入れておくと、漬物が出来る場所だ。そこに入れておくと、腐らないんだ。
良かったら、後で見せてやるよ。」
「う、うん・・・。」
哲司は、もうそのキュウリの漬物が入った握り飯を食べ終わっていた。
3つ目に手が伸びる。
(つづく)