第7章 親と子のボーダーライン(その183)
台所に行くと、「おい、こっちだ」と声が掛かった。
祖父が哲司を傍に呼ぶ。
「いつも食べてるのはこれぐらいか?」
祖父が、子供用の茶碗にご飯を入れたものを見せる。
「う、うん・・・。それぐらいだと・・・。」
「じゃあな、よく見てろ。」
祖父はそう言ったかと思うと、その茶碗をひっくり返すようにして、ご飯を片掌の上に開けた。
そして、もう片方の掌を添えるようにして、器用にそのご飯を丸めるようにする。
「梅干を入れるか。」
そう言って、小さな梅干を1個、その掌の中へと放り込む。
そして、その梅干を包み込むようにして握っていく。
何度が手首を返すようにして握ったかと思うと、哲司に向かって言ってくる。
「手を出しな。」
「こ、こう?」
哲司が両掌を揃えて差し出す。
祖父が、その掌の上に握り飯を1個乗せた。
綺麗に三角形をしている。
「へぇ~、お爺ちゃん、上手・・・。」
「ほらな・・・。」
「ん? 何が?」
「子供用の茶碗1杯で、それぐらいのおにぎりが出来るんだ。」
「ああ・・・、なるほど・・・。」
哲司は、祖父が、先ほど言ったことを目の前で証明してくれたのだと思った。
「どうだ。納得したか?」
「う、うん・・・。」
「哲司は、それを5個は食べるだろ?」
「今日は、もっと食べられるかも・・・。」
「そ、そうか・・・。良いぞ。6つでも7つでも。」
祖父は楽しそうに笑った。
「これから食べても良い?」
哲司は、今渡された握り飯を両手で持って訊く。
「ああ、そうしろ。」
ふたりは、朝食を食べたテーブルのところへと座る。
テーブルには、中央に大きな皿がひとつだけど~んと置いてあって、後は湯呑と手布巾が両脇に乗っているだけだった。
「わぁ、凄い!」
哲司は、その大皿の上に乗った握り飯の山に驚いた。
優に、20個ぐらいはあるだろう。
「だから言ったろ? 好きなだけ食べろって・・・。」
「う、うん・・・。じゃあ、頂きます。」
哲司は、手にしていた握り飯にかぶりついた。
(つづく)