第7章 親と子のボーダーライン(その182)
新聞紙を広げて、縁側に置く。
そして、そこに持って来た竹を並べて置く。
「哲司、もう少し後ろ側にしろ。」
祖父の声が聞こえる。
「ん? 後ろって?」
「今、そこに日が当たってるだろ?」
「う、うん・・・。」
「その日に、直接当たらないようにってことだ。直接当たると、歪んだ笛になっちまう。」
「わ、分かった。・・・、これで良い?」
「よ、よし・・・。それで良い。」
祖父は、台所に立ちながらも、哲司のすることを目の端に留めて言う。
「お爺ちゃん、先にタライの水を撒いてくるよ。キュウリのところだよね。」
「おお、そうだ。よく覚えてたな・・・。」
「じゃあ、行ってくる。」
「ああ、ついでに、手を洗って来い。」
「う、うん。そうする。」
哲司は、また裏庭へと駆け出した。
何かしら、ルンルンな気分を感じる哲司だった。
その理由は自分でも定かでは無い。
ただ、ここにいると、家では感じない風や光を意識する。
何か、「生きてる!」って気がする。
先ほどと同じように、ポリバケツにタライの水を入れて、それをキュウリの畑に撒きに行く。
そして、いざ、撒こうとしたとき、ふと考えた。
(ええっと・・・、あのタライの水だと、このバケツに3杯ぐらいだよな。さっきは5杯だったし・・・。
と、言う事は、この畑の全部に水をやろうとすると、この1杯で、全体の1/3か・・・。)
哲司は、そう考えた自分を褒めてやりたくなる。
そして、畑の長さの1/3を目で意識する。
で、そこから端っこに向けてバケツの水を注ぎながら歩いていく。
「よ~し、上手く行ったぞ!」
哲司は、嬉しくて自然とガッツポーズが出る。
で、その勢いのままで、2杯目の水を運んだ。
そして、今度は逆の端っこから1/3の地点から水を注ぎ始める。
最後の1杯で、残っていた中央の部分に水を注いだ。
「よし! 出来た!」
(このことをお爺ちゃんに教えなきゃ・・・。畑の全部に水撒けたよって・・・。)
哲司は、バケツをタライの傍に置いてから、手洗い場のところへと向かう。
そして、蛇口を捻って手を洗った。
「お~い、哲司・・・。握り飯が出来たぞ!」
母屋から、祖父の声が聞こえた。
「今、行く!」
哲司は、また飛び跳ねるようにして裏口から母屋へと入った。
(つづく)