第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その16)
そう聞かされても、哲司には言葉が無い。
奈菜が妊娠をしていた。
それは想像すらしたことがないことだ。
そりゃあそうだろう。それが当然だ。
可愛い子だと思えば、何とか付き合えないものだろうか、と考えるのが若い男のストレートな気持なのだ。
たまたま、あの釣銭事件があって、その後に、哲司がスノーボードを抱えて店に行ったことから、何となくきっかけが出来た程度だった。
「じゃあ、一度スノボー旅行でも・・・」というところまでは話が進んでいたが、その具体的な話をつめるまでに、突然にバイトを辞めてしまっていたのだ。
それだけの間柄である。
「今、彼氏はいるの?」という問いに、「いませんよ」と言う答えが返ってきていた。
それでも、それを鵜呑みにするほど馬鹿でもない。
心の片隅には、誰かいるかもしれないな、との心配はあった。
その心配が、まともに的中しただけのことである。
「でも・・・・・・、まさか、ですね。」
哲司は、ようやくそれだけを口に出した。
「そう、そのまさか、なんですよ。」
店長も同じ言葉を繰り返した。
だが、その意味は自ずからまったく異なるものであった。
「急に、今日からバイト行けなくなったんで・・・、と電話があったときは、正直、叱りつけましたよ。
あの火事以降、多感な時期にあんな事件があったのだからと少し大目に見てきたのですが、さすがに今回の対応だけは大人として許せませんでした。
家族の手伝いと言うのではなくて、正式なアルバイトとして冬休みの期間を対象として雇用契約を結んでいたんですからね。
どうしてなのだ? と聞いても、はっきりと言わないんですよ。
仕事の上で何か嫌なことでもあったのかと聞いても、それは無いと言うし、身体が辛いのかと聞いても、そうではないと言うし。
だったら・・・と言ったら、向こうから電話を切ってしまったんです。」
店長は、その当時を振り返って説明をする。
哲司も黙ってそれを聞いている。
「それから何日かして、家に行ってみたんです。オヤジも心配してましたから。
するとね、たまたまなんでしょうが、ダイニングテーブルの上にあの子の財布が放り出すようにしておいてあったんです。
こんなところに投げ出したままで・・・と、その財布に手をかけたとき、産婦人科の診察券が出てきたんです。
ビックリしましたよ。
あの子はまだ高校生ですよ。
そんな子の財布から、産婦人科の診察券が出てくるなんで、本当に信じられませんでした。」
店長は、相変わらず、目線を哲司と合わせない。
(つづく)