第7章 親と子のボーダーライン(その177)
「そうそう、そのおやつの話も途中までだったな。」
祖父は、ますます楽しそうな顔で言う。
「その、セイコウウドクとおやつが一緒って?」
「あははは・・・、一緒じゃあない。ただな、おやつも、自然が人間に教えてくれた生き方、生活の仕方のひとつだってことだ。
そういう点で、晴耕雨読と同じだと。」
「・・・・・・。」
哲司は、分かったような、それでいて、何処かに大きな疑問が残ったような気持だ。
「さっきも言ったろ? 昔のお百姓さんは朝晩の2食しか食べなかったって・・・。
今のように、3食食べる習慣がなかったんだな。」
「ど、どうして?」
「それにはちゃんとした理由があった。」
「ど、どんな?」
「ひとつには、お米が食べられなかったことだ。」
「ええっ! お百姓さんって、お米を作ってたんじゃなかったの?」
「ああ、確かに作ってたさ。それなのに、自分たちでは食べられなかったんだ。」
「ん? ど、どうして? 自分の田んぼで作ってたんでしょう?」
「そうだなぁ・・・。哲司は、年貢って分かるか?」
「ネング? 寝るときに使うもの?」
「それは寝具だろ? 年貢ってのは、今で言えば税金だ。それをお米でお上に納付していたんだ。」
「お金じゃなくって?」
「ああ、お金ではなくって、お米で収めるように決められていたんだな。」
「ひ、酷いね。お百姓さんが可哀想。」
哲司の頭には、テレビの時代劇に出てくる悪代官の顔が浮かんでいた。
「そうだな。そんな決まりになっていたから、お百姓さんは自分たちはお米ではなくって、稗とか粟を主食にしてたんだ。」
「ヒエ? アワ?」
「まあ、今で言う雑穀だな。米の代わりのような穀物だが、そんなに美味いものではなかった。
おまけに、ご飯のような粘り気はなくって、どちらかと言えばパサパサしたものだった。
だから、おにぎりには出来なかったんだ。」
「へぇ~、そんなものを食べてたんだ・・・。」
「で、さっきの晴耕雨読じゃないが、朝、明るくなったら田んぼや畑に行って仕事をするんだな。
だから、その前に起きて、ご飯を食べるんだ。
で、夕方、日が落ちたら、作業を終えて家に帰ってくる。
そして、夕飯を食べてから寝るんだな。
そんな生活だったんだ。」
「じゃあ、明るいうちは働いていたの?」
「ああ、そういうことだ。」
「それも、お昼も食べないで?」
「ああ、そうだな。だから、おやつというものが登場したんだ。」
ようやっと、“おやつ”が出てきた。
どうしてか、哲司がにっこりと笑う。
(つづく)