第7章 親と子のボーダーライン(その173)
「イノシシとブタの子供か・・・。」
哲司は、思い浮かべた映像を壊しに掛かる。
やはり、ちゃんとした想像は出来ない。
「ブタは、もともとイノシシの親戚のようなものだ。だから、その肉も似てるんだな。
ただ、イノシシは野生だとその運動量は格段に違う。
つまりは、筋肉質なんだな。
おまけに、寒さに耐えるために皮下脂肪がしっかりと付いてる。
それがまた旨いんだけどな・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は答えようがない。
「よし、この8本をもう一度洗ってくれ。」
祖父は、笛の長さ程度に切った竹を哲司に渡してくる。
「これって、皆、少しずつ長さが違うんだね。」
哲司はその微妙な違いに気が付いた。
「おう、これまた、よく気が付いたな。」
祖父はにっこりと笑う。
「どうしてなの? わざと?」
哲司は、祖父が糸鋸で切ったのだから、それなりに意味があるのだろうと思った。
「良いか、よく覚えておくんだぞ。笛はな、その筒の太さと長さで音が決まるんだ。
だから、竹の太さに合わせて、その長さを調整するんだ。」
「ああ・・・、それで、これだけ長さが違うんだ。」
「そういうことだ。」
「こんなに作るの?」
哲司はタライの中でその竹を洗いながら訊く。
「う~ん、駄目になる奴が必ず出てくるからな。」
「じゃ、じゃあ、ここに8本あるんだけど、これでちゃんと笛に出来るのはどれくらいなの?」
「1本か、良くて2本だな。」
「そ、そんなに少ないの?」
「ああ・・・、後は、鳴るのは鳴っても、音色が悪いとかな。」
「ふ~ん・・・、難しいんだ・・・。」
「そうだ。難しいんだ。だからこそ、宿題として作る価値がある。」
「ぼ、僕に出来るのかなぁ・・・。」
哲司は、心細くなってくる。
「どうした? 何でもそうだが、やる前から、駄目な結果を考えてどうする?
やってみることが大切なんだ。
多少は音階がへんてこりんでも、哲司が頑張って作ったものであれば、それこそ胸を張って学校へ持っていけば良いんだ。
な、そうだろ? 誰が作っても、ほぼ同じような仕上がりになるプラモデルじゃ無いんだからな。」
祖父は、そう言って哲司の顔をじっと見る。
「そ、それはそうだけど・・・。」
哲司は、それでもちゃんとした音の笛が作りたい。
そのために、ここに残ったのだ。
(つづく)