第7章 親と子のボーダーライン(その171)
「そ、そうだなぁ・・・。そこに座って、爺ちゃんのすることをよ~く見てろ。」
祖父は、そう言ってから、糸鋸で切った竹を1本ずつ手にとって行く。
そして、その中を覗くようにする。
そう、まるで昔の遠眼鏡を覗くようにだ。
「な、何をしてるの?」
哲司は、疑問があると言うより、興味があって訊いている。
「竹の中の様子を見てるんだ。」
「中って?」
「この中が綺麗な面になってないと、良い音が出ないからな。」
「・・・・・・。」
哲司は、言われること自体は理解出来るものの、祖父が言う「中が綺麗な面になっている」という感覚が分からない。
「覗いてみろ。」
祖父は、そう言って2本の竹を哲司に渡す。
哲司は、両手で、1本ずつを受け取る。
そして、祖父がしていたのを真似るようにしてその中を覗く。
「うわぁ~、こんなになってるんだ・・・。」
「そうだ。それが、自然のままの竹だ。結構、毛羽立ってる感じがするだろ?」
「う、うん・・・。こっちも一緒かなぁ?」
哲司は、もう1本も、同じようにして中を覗く。
「こっちは、色が少し黒いんだね。」
「ああ、そっちの方が、古いんだろうな。」
「ど、どうして? 古いと、黒くなるの?」
「ま、それもあるが、枯れている証拠だろうな。」
「枯れてる?」
「ああ、きっと、猪か何かに倒されたんだろうな。自然に枯れたものじゃない。」
「イノシシ? イノシシっているの?」
「ああ、いるよ。」
「お爺ちゃんは、見たことある?」
「ああ、何度もな。そして、何度も食べた。」
「た、食べた? イノシシって美味しいの?」
「ああ・・・、哲司は食ったことが無いのか?」
「う~ん・・・、ないと思う。それも、スーパーじゃ、売って無いんでしょう?」
「あはははは・・・・・。」
祖父は、何が可笑しいのか、大きな声で笑った。
「焼いて食べるの?」
「う~ん、丸焼きにしたら旨いんだろうけど・・・。やっぱり鍋が多いな。」
「お鍋? どんな味がするの?」
「そうだなあ、哲司も、豚は食べたことがあるだろう?」
「う、うん。僕は、トンカツが好きだけど・・・。」
「豚を入れた鍋は?」
「う~ん・・・、わかんない。食べたかもしれないし、食べてないかもしれない。」
「そうか・・・。肉の味そのものは、豚に似てるかな。ちょっと、油がきついんだが・・・。
牡丹鍋と言ってな、昔はこの辺りでも冬のご馳走だったんだが・・・。」
祖父は、昔を懐かしむような顔をする。
(つづく)