第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その15)
「当時は中学生だったんですが・・・・・、その事件があってから、とうとう学校へも行かなくなりまして・・・・。」
マスターは寂しそうにそう言って、珈琲をおいてからはまたカウンターの方に戻っていった。
あとの話しは、息子、つまりコンビニの店長に任せようというつもりらしい。
「それからは、まぁ、いろいろとありました。
他人様にはとても言えないようなこともあったんです。」
店長はそう言いながら、また向かいの店にいる奈菜の方を見やる。
哲司は何も言わずにただ黙って聞いている。
そうするより他は無いような気がするのだ。
ただ、こうした話を店長が哲司に聞かせるであろうことを奈菜が承知していることに驚く気持もある。
どうしてなのだ?
「この前の冬休みのとき、あの子、途中でバイト辞めちゃったでしょう?」
店長がその事実を改めて口にする。
「あのときに、実はお話しておこうかとも思ったんですが、あの子がもう少し黙っていて欲しいと言ったもんで・・・・。」
「?」
哲司は何事を聞かせされるのかと思う。
あの時、この店長にも問い質したことがあった。
「どうして奈菜ちゃんは突然辞めたのか?」と。
その時、店長は「今時の高校生は何を考えているのか分らない」と答えたのだ。
「ケイタイ番号を教えて欲しい」と詰め寄ったが、「規則で教えられない」と即座に否定したのだった。
それなのに、今日は、その時の話からするようだ。
「実はね、あの子、妊娠していたんですよ。」
店長は、哲司の顔を見ないで話している。
面と向うのが辛いのか、先ほどからずっと外ばかりを見ている。
「ええっ! ・・・・だ、誰の子なんですか?」
哲司は出来るだけ冷静さを装って訊こうとするが、そうもいかない。
「それが分れば苦労は無かったんです。責任の取らせようもありますからね。」
「・・・・と、いうことは、誰の子か分らない?」
さすがに哲司も声が小さくなる。
店長は黙って大きく頷いた。
そして、ひとつ溜息をつく。
「あの子はね、その事実を誰にも言ってなかったんです。
自分でなんとかしようと考えていたようです。
そのひとつの選択肢として、誰かを父親に仕立てたかったようです。」
(つづく)