第7章 親と子のボーダーライン(その167)
●読者の皆様へ
9月30日のサイトのリニューアルに伴う影響も落ち着いてきたようなので、
いつもの時間とは違いますが、本日分をアップします。
ふたりはまた裏口から出て、井戸がある裏庭へと行く。
「さっきのトマト、美味しかったあ~・・・。」
哲司は、無意識でそう呟いた。
まだ口の中には、その衝撃的な味がずっと尾を引いていたからだ。
「たまには、ああしたおやつも良いだろ?
何とかチップスとか、チョコレートじゃなくって・・・。」
祖父は楽しそうに言う。
「おやつって、3時だと思ってたけど・・・。」
哲司はふと疑問に思っていたことを訊く。
「う~ん、まずは“おやつ”ってのは、どうして“おやつ”って言うか知ってるか?」
「ん? わ、わかんない。」
「“おやつ”ってのは、もともとは昔の時刻の呼び方だったんだぞ。」
「ジコクって、時間のこと?」
「う~ん、厳密には違うな。
時間は時の長さだ。何時間寝たとか、勉強を何時したと言うようにな。
それに対して、時刻は何時何分のことを言う。
今、何時か?とか、何時に学校に行くとか。
この違い、分かるか?」
「う~ん、何となく・・・。」
「そっか、何となくなぁ・・・。」
祖父は苦笑した。
「昔、時刻は、九つから引いていって数えたんだ。」
「えっ! 引き算みたいに?」
哲司は、算数が苦手だった。
いや、勉強全体が苦手だったと言うべきかもしれない。
「ああ、そうだ。12時を九つと言ってな、それから2時間ごとに八つ、七つと数えたんだな。
で、また12時が来ると、九つから数える。」
「ど、どうして?」
「あはは・・・。それは、爺ちゃんも知らん。
でも、江戸時代、つまりは哲司のご先祖様がちょんまげを結っていた頃からそうして数えられていたらしい。」
「ええっっ、ちょんまげ? ぼ、僕のご先祖様って、江戸時代になんていたの?」
哲司は、いきなりちょんまげの世界に引き込まれて驚きの声を上げた。
江戸時代と言えば、哲司にとってはテレビの時代劇のイメージしかない。
そんな時代に、自分の先祖がいたなんて・・・と単純に思ってしまう。
そんな筈は無いと思っていた。
「あははは・・・。何を言ってるんだ。誰のご先祖でも、江戸時代、いや江戸時代だけじゃあない。どの時代にも生きていたんだ。
だからこそ、今、こうして、哲司が生きてるんだ。
ご先祖様がいなければ、哲司だって生まれちゃあいない。」
祖父は、まさか哲司にそんなことを問われるとは思っていなかったようで、鳩が豆鉄砲を食らったように苦笑しながら説明してくれる。
(つづく)