第7章 親と子のボーダーライン(その166)
「こいつら、お嫁には行けなかったんだが・・・、なかなかの器量良しだろ?」
祖父が笑いながら言う。
「ん? お嫁? キリョウヨシ?」
哲司の頭にはハテナマークばかりが浮かんだ。
「おう、そ、そうだなぁ・・・。」
祖父は、哲司に真意が伝わらなかったと知って、言い方を変えようと考えている。
「このトマトは、本当は農協へ出荷する予定だったんだが、何せ形も大きさも不揃いでな・・・。出荷基準に到達せなんだ。
つまりは、農協が売れんと言ってきたんだ。
で、こうして哲司なんかの口に入っとる。」
「・・・・・・。」
「それでもな、出荷はできんかったが、こうしてひとつひとつを食っていると、とても旨いだろ? そういう意味だ。」
「・・・・・・。」
哲司は、口の中にまだトマトが残っていて何も喋れないから、黙って頷くだけにする。
それでも、口はモグモグと休まずに動いている。
「そりゃあな、確かに、不揃いだ。同じ様な奴も少ない。
でもなぁ、同じように畑に植えて、同じよう世話をしてやって、そして同じようにお日様の愛情を一杯に受けて育ったトマトだ。
爺にしたら、どれもこれも、我が娘と同じなんだな。
だから、本当は嫁に出してやりたかった。」
「で、でも・・・、僕がこうして貰ってあげている・・・。」
「あははは・・・、そ、そうだな・・・。この娘達は、皆、哲司の嫁さんになるのか・・・。」
「い、今は、もうこれだけしか食べられないけど、またお昼や晩にも食べるよ。」
哲司は、祖父との会話が成立したことをとても嬉しく思った。
何か、大人の会話をしているように思えたからだ。
「そうか、じゃあ、このまま冷やしておこう。」
祖父は、嬉しそうにして、トマトが浮かんでいた桶の水を取り替えた。
「ど、どうして冷蔵庫に入れないの?」
哲司は、単純な疑問を口にした。
冷やすのだったら、冷蔵庫があるのだから、そこに入れておけば済むことではないかと思ったのだ。
「ん? 冷蔵庫か? ・・・・・・。」
祖父は、その後の言葉を頭の中で考えているようだった。
「じゃあな・・、ひとつだけ、冷蔵庫に入れておけ。
その代わり、それは必ず哲司が今晩食うんだぞ。いいな。約束だ。」
「う、・・・うん・・・。」
哲司は、歯切れの悪い返事をした。
直感で、入れない理由が祖父にはあるのだろうと思ったからだ。
「よ〜し、おやつはこれでお仕舞い。裏庭に行って、さっきの続きをやろう。」
祖父は、首にタオルを巻くようにしてそう言った。
(つづく)
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