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第7章 親と子のボーダーライン(その165)

「ええっ! おやつ?」

哲司はまさかの言葉に目を丸くする。

それでも、その目と口は嬉しそうだ。


「何か、10時のおやつって・・・。」

哲司には、幼稚園の頃にしかそうした記憶はなかった。

小学校に上がってからは、おやつと言えば午後の3時のイメージだった。

だから、10時のと聞いて、どこか懐かしさを覚えた。



「まぁ、こっちに来いや。」

祖父は、そう言って裏口から台所へと入っていく。

哲司もそれに続こうとする。


と、途中で、哲司が歩く方向を変えた。

そう、井戸水をポンプで汲み上げている蛇口のところへとだった。

それを捻って手を洗った。


「おう・・・、感心感心・・・。」

祖父は、哲司が付いて来ないから振り返ったようで、哲司がそうしたのを褒めてくれる。



台所へと行くと、祖父は洗い場のところで何やら手を動かしていた。


「哲司、こっちへ来い。」

祖父が呼ぶ。


「な、何?」

寄って行くと、その洗い場の中には小さな桶があって、その中に真っ赤なトマトが水に浮かんでいた。


「これ、食ってみな。」

そう言ったかと思うと、祖父はいきなりそのひとつを手にとってかぶりついた。


「おおぅ! 旨い。」

「・・・・・・!」

その声に誘われるようにして、哲司もそのひとつに手を伸ばした。

持った瞬間、その水の冷たさに手が驚いてしまう。

それほどまでにその水は冷たかった。


その余韻を楽しみながらも、哲司は取り出したトマトに、同じようにしてかぶりつく。

その途端、少し酸味のある、あのトマト独特の甘さが口の中一杯に広がってくる。


「お、おいしい!」

哲司も思わずそう叫ぶように言う。


「どうだ、よく冷えてて旨いだろ?」

「う、うん・・・。」

哲司は、もう話すことなど出来はしない。

口一杯にトマトを入れている。

そのエキスがどんどんと喉の奥に吸い込まれるようにして入っていく。


「良かったら、もう1個食っても良いぞ。」

祖父は、哲司の食べっぷりを見て、そう言ってくれる。

哲司は、頷きながらも、まだ最初の1個を食べ終えてはいない。



(つづく)



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