第7章 親と子のボーダーライン(その164)
「哲司は、男にしちゃあ華奢だ。」
祖父が哲司の頭から足の先までを見るようにして言う。
「キシャ?」
「汽車じゃあない。華奢だ。
う〜ん、つまりはだ、ほっそりとしていてお上品ってことだ。
おまけに、優しいし繊細だ。
だから、女の子にゃあ、人気があるだろうってことだ。」
「う〜ん・・・、どうなんだろ?」
そう言われると、お尻の辺りがくすぐったい。
そんなことを言われたことも無いし、自分でも思ったことが無い。
学校での評判は、それとは真逆だろう。
「落ち着きが無い」「集中力に欠ける」「人の話を聞こうとしない」「粗野だ」・・・と散々である。
哲司自身がそう言われたこともあるが、何より強烈なインパクトがあるのは保護者懇談の席でのことだ。
そうした評価が担任から次々と母親に告げられる。
そうなれば、その後がまた大変なのだ。
母親から父親に詳細が報告される。
で、それを聞いた父親が哲司を呼びつける。
その後のことは思い出したくも無い。
「哲司は照れ屋か?」
「・・・・・・。」
哲司は、何とも言えない。
出来れば、祖父だけでもそう思っていて欲しいと思うだけである。
「昔から、孫は目の中に入れても痛くないほどに可愛いもんだと言われとるが・・・。
その所為なのかなあ?」
「な、何が?」
「いやいや、爺の眼は節穴じゃない・・・。
やっぱり、哲司の良いところが分かって無いんだろうな? 父さんと母さんは。」
祖父は、自分で言って自分で答えるような言い方をしている。
「ん? な、何のこと?」
「い、いや・・・、良いんだ。爺の独り言だ。
ひとりでいると、ついひとりで喋る癖が付くようでな・・・。」
「・・・・・・。」
そう言われてしまうと、哲司は何も言えなくなる。
そう言っている間も、不思議と哲司の手は止まりはしなかった。
先ほど、祖父が見せてくれた手本に忠実に、次々とタライの中の竹を洗っていく。
それを祖父は見ていないような振りをして、それでもちゃんと視界に捉えていた。
「洗えたよ。」
哲司がそう言うと、祖父は黙って頷いた。
そして、額のところに手をかざすようにして空を見上げる。
「10時のおやつにしようか。」
祖父はにっこり笑ってから、そう言った。
(つづく)