第7章 親と子のボーダーライン(その163)
「でもな、この竹は“女竹”だから、そっと、優しく扱ってやらないと駄目なんだぞ。」
祖父が竹を手にした哲司に言う。
「オンナダケ? つまり、男じゃないってこと?」
哲司は驚いて問い返す。
竹には、男も女もないものだと思っていたからだ。
「あははは、いや、そういう意味じゃあない。そういう種類ってことだ。
正式な名前は、確か篠竹と言ったかな?
ただな、その名の通り、すらっと細く伸びる竹でな、傷が付きやすい。
その分、加工、つまりは穴を開けたりするのはしやすいんだが、粘りが少ないから割れやすいという欠点もある。
それでも、殆どの竹笛はこれを使って作られている。
何しろ、音の響きが良いんだな。色っぽいんだ・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、その話を聞きながら、手に持った細目の竹をじっと見る。
そう思って持つからか、肌触りもどこか優しく思えてくる。
「昔はな、竹細工が盛んでな。」
祖父は、遠い目をする。
「笛だけじゃあない。籠やザル、箸、花瓶、うちわや扇子の骨、提灯、行灯・・・。
そりゃあ、いろんなものを作っとった。
そうした細工の材料として、囲炉裏の煙で燻した女竹を使ってたんだ。
だから、どこの家に行っても、天井にこうした竹が並べてあったもんだ。」
「い、今は?」
「爺の家にも囲炉裏はあるが、今じゃあ、昔ほど竹製品が売れなくなったからなぁ。
誰も作らんようになってしもうた。
籠でも、ザルでも、今じゃ皆石油で作るからな。」
「そ、そうか・・・。」
「哲司のお母さんが子供の頃にゃあ、こうした竹で竹とんぼや竹人形なんかを作って遊んだもんだがなぁ・・・。」
「竹とんぼかぁ・・・。」
そう言えば、何年か前に、祖父に作ってもらったことを思い出す。
「ほら、また手が止まっとる。
今の子は、テレビの影響なんだろうが、話を聞きながらでも手を動かすことが苦手なようじゃな・・・。」
「そ、そんなこと・・・。」
そうは言いかけたものの、哲司は、そうかもしれんと思う。
学校でも、黒板の字を書き写していると、先生の話が耳から入らなくなる。
で、話を聞こうとすると、書き写せない。
で、結局は、その部分が分からないままで次に進められる。
どうも、その繰り返しのようだった気がする。
「ほ、ほら、優しくだ。そうそう、それぐらいで丁度良い。
それだと、哲司は学校じゃモテルだろ?」
突然のように、祖父がそんな訊き方をしてくる。
「ん? なんでだ?」
哲司は、言われる意味が分からない。
(つづく)