第7章 親と子のボーダーライン(その162)
「じゃあな、持って来た竹をそのタライの中に入れろ。」
祖父がそう言う。
「こ、こっちの竹だよね?」
哲司が訊く。
哲司が運んできた竹と、その後に祖父がポリバケツと一緒に持って来た太い竹があったからだ。
「おお・・・、そ、そうだ。」
祖父は、哲司が太い竹もその視界の端に留めていたことを楽しそうにする。
「こっちの竹も気になるのか?」
祖父が脇に横たえてある竹を顎で指し示して言う。
「う、うん・・・。」
「そ、そっか・・・、後で教えてやるよ。」
「・・・・・・。」
哲司は、悔しい気持とワクワクするような期待感とが入り混じった顔をした。
祖父がタワシとヘチマを持ってくる。
そして、何やら白い粉をタライの水に入れてかき回した。
「そ、それは?」
哲司は、その白い粉が何であるのか気になってくる。
「内緒だ。」
祖父はそう言って教えてくれないが、どうやらそう危険なものでは無いらしい。
祖父が手を入れてかき回したものだからだ。
「初めはタワシで、そして一皮向けたら今度はヘチマで擦るんだ。
いいか、よ〜く見ておけ。こうするんだ。」
そう言ったかと思うと、祖父はそのタライの傍にしゃがむようにして、何本かあった竹のうちの1本を擦ってみせる。
「でな、これぐらいの色になったら、今度はヘチマだ。」
「ど、どうして、そんなことをするの?」
「おお、良い質問だ。何でも、訳が分ってやるのと、そうでなく、ただ言われたとおりにやるのとでは、その出来栄えも自ずから違ってくるからな。」
「・・・・・・。」
哲司は、祖父の言葉が嬉しかった。
「竹は、もともとまっすぐに伸びる性質を持っとる。
だけどもな、中には、へそ曲がりな奴がいてな・・・。」
祖父は、そう言って哲司の顔を見てくる。
まるで、哲司が「へそ曲がりだ」と言われたようにだ。
「表皮、つまりはだ、一番外っ側のこの部分を取ってやると、一晩で曲がってしまう奴がいる。
そんな曲がった竹じゃあ笛は作れん。
つまりは、これは竹笛に出来るかどうかの試験みたいなもんだ。」
「だ、だから・・・なんだ・・・。」
哲司は、何やら感心する気持になっている。
(つづく)