第7章 親と子のボーダーライン(その158)
朝食のとき、祖父は「それは神様から頂いた」と言ったのだ。
「神様」と聞いて、哲司が神社を連想しただけだった。
その後の、具体的な話は出なかった。
「そう、そう言ってたなぁ、哲司は・・・。
だけどな、場所は違うが、哲司の言っていることも間違いじゃあない。」
「ん?」
「都会じゃ、スーパーに行けば、そこにあるものは何でも買えるな。
もちろん、高いとか安いとかの話はあるんだろうけれど・・・。」
「う、うん。高いものは、買ってもらえないよ。」
「でもな、田舎じゃ、そこにあっても頂けないものが沢山ある。」
「そ、それは高いから?」
「そうじゃあない。お金なんて、必要が無い。」
「えっ! じゃあ、タダなの?」
「う〜ん、どうして、すぐに値段のことが気になるかなぁ・・・。」
祖父は、呆れたと言うより、どちらかと言えば困惑をしたような顔をする。
哲司も、どうフォローして良いかが分からない。
「お金を支払わないでもらえることを“タダ”と言うのであれば、それはタダかも知れん。」
「・・・・・・。」
哲司は「ほら、言ったとおり」だとは思わなかった。
「爺ちゃんが川で獲ってきたからだ。」
祖父は、手で釣竿を操るような仕草をして言う。
「えっ! 爺ちゃんが!?」
哲司は、祖父の言葉を意外と受け取った。
今までに、釣りの話なんかしたことが無い祖父だったからだ。
「ああ・・・、だから言ったろ? 神様が呉れた魚なんだって・・・。」
「ん?」
そこまで言われても、哲司には祖父が言う「神様から貰う」という意味が分からない。
「また、別の日にでも連れて行ってやるが、川に行けば、山女はウヨウヨしとる。」
「ええっっっ、そんなに沢山いるの?」
「ああ、川の中にはな。群れを成して泳いどる。」
「じゃあ、網があれば、沢山捕まえられる?」
「そ、そうかもしれんな。でも、それは禁止されとる。網を使ったら駄目なんじゃ。」
「ど、どうして?」
「だから、それは神様がお育てになっている魚だからだ。」
「神様が育ててる?」
「ああ、山の神様が、ワシら、人間のために、大切にお育て下さった魚だからじゃ。
哲司がこれから汲み上げようとする水だって同じことだ。」
「ん?」
哲司は、どうして山女と井戸水がそうくっつくのか分からない。
「哲司の言い方を真似すると、その水もタダということになる。」
祖父は、哲司の疑問に答えるように、そう関連付けてくる。
(つづく)