第7章 親と子のボーダーライン(その154)
まずはゴムホースを探す。
それがあれば、後は簡単なことだ。
そいつを蛇口に嵌めて、そしてその端をタライの中に突っ込めば良いだけだ。
「ホースか?」
祖父は、哲司の先を行っている。
「う、うん・・・。」
哲司は、自分が考えていることを祖父に読まれたことが悔しくもあり、それでいて嬉しくもある。
「残念だが、それはない。」
祖父は、先回りをするかのように結論を教えてくれる。
「えっ! な、無いの?」
「ああ、そんなものは無い。必要が無いものは置いてない。」
「・・・・・・。」
哲司はその頭に「?」をつける。
今時、どこの家に行っても、ゴムホースはある。
その太さや長さはそれぞれの用途に応じて様々なのだろうが、少なくともゴムホースがまったく無い家なんてないだろう。
それが、哲司の常識だった。
ところがである。
祖父は、いとも簡単に「必要が無いものは置いてない」と言い切る。
本当にそうなのだろうか?
別に、祖父が嘘を付いているとは思わないが、どうにも納得が行かない。
「だったら・・・。」
哲司は、最初から考え直さなければいけなくなる。
ゴムホースが無いのに、離れた蛇口からタライに水を流し入れる方法を見つけなければならない。
まずは、タライを動かすことを考えてみる。
何しろ、蛇口は固定されているのだから、動かしようが無い。
だとすれば、タライを動かして、何とかその蛇口の下に持っていくしか方法は無い。
それでもだ。そのタライはあまりにもでかすぎる。
直径が1メートルを越えているだろう。
とても、哲司の手で持ち運べるようなものではない。
「そ、それじゃあ・・・。」
哲司は、そのタライを引きずっていくことを考えた。
それで、まずはその端を持ち上げてみる。
「ああ・・・、お、重たい。」
持ち上げかけた手をすぐに離してしまう。
到底、持ち上げられる重さではなかった。
木製だから、重さはそれほどにはないのだろうと思ったのが間違いだった。
これでは、引きずることさえ出来はしない。
「ど、どうした? 万策尽きたのか?」
「バンサク?」
哲司は、祖父の言葉が分からなかった。
(つづく)