第7章 親と子のボーダーライン(その151)
「お爺ちゃん、どこへ行ってたの・・・。」
そう言いかけた哲司の喉が硬直する。
そこにいたのは、祖父ではなかった。
どうやら郵便屋(郵便局員)のようだった。
赤い自転車が印象的だ。
「あっ、お爺ちゃんは?」
その郵便屋は気さくに哲司に声を掛けてくる。
どうやら、祖父とは顔なじみのようだ。
都会では考えられないことだ。
「今はいない。」
哲司はガッカリしたこともあって、ぶっきらぼうにそう答える。
「どこに行った?」
「知らない。」
「すぐに戻ってくる?」
「わかんない?」
この会話で、郵便屋も少し考える風にする。
「そうか・・・。」
「何か用事?」
哲司は、郵便屋なんだから、きっと手紙を届けにきたのだろうと単純に思った。
「他に、大人の人は?」
「いないよ。僕だけ・・・。」
哲司は、自分ひとりで留守番をしてるんだと主張したかった。
「そうか・・・。」
郵便屋はまたまた考えている。
「じゃあね、これ置いておくから、お爺ちゃんが戻られたら、これを渡してよ。」
郵便屋は、何かしら薄っぺらい紙に何事かを書き入れて、そしてその一枚を千切るようにして哲司に渡してくる。
「うん。分かった。」
哲司もその紙を受け取って言う。
「じゃあね・・・。」
郵便屋は、そう言って帽子にちょこんと手をやってから、再び自転車に跨って行ってしまった。
哲司は、しばらくはその郵便屋の後姿をじっと見ていた。
別に、郵便屋が珍しかったのでもなんでもないが、ようやく人と話せたのに・・・との思いがそうさせていたのだろう。
郵便屋の自転車は、田舎のあぜ道をエンヤラショと走っていく。
1軒隣の家に行くまでにも、それ相当の距離を漕がなくてはならない。
そんな田園風景が広がっている。
(つづく)