第7章 親と子のボーダーライン(その150)
(お爺ちゃん、どこに行ったんだろう・・・。)
哲司は、ふと孤独感を覚える。
裏庭かもしれない。
そう思って、台所の裏からツッカケを履いて外に出てみる。
そう、朝、顔を洗ったあの井戸がある裏庭である。
「お爺ちゃ〜ん!!」
そこでも、祖父を呼んでみる。
そして、どこからか返事が返ってこないかと、耳を澄ませてみる。
「・・・・・・・・・。」
だが、哲司の耳に聞こえてくるのは、風に揺れる木々の葉の音だけだ。
哲司は、元いた部屋に戻る。
本音を言えば祖父を探しに出かけたいのだが、かと言って、どこをどう探せば良いのかがまったく分からない。
下手に外へ出ると、自分でこの家に戻ってこれる自信もない。
したがって、ただひたすらこの場で待つしかない。
(そ、そうだ! テレビでも見ていよう・・・。)
哲司は、ふとそう思い立つ。
それ以外に出来ることがなさそうに思えた。
いくら田舎だと言っても、テレビぐらいはあった。
その前に行って、電源を入れる。
すると、何やら男女ふたりのアナウンサーが出てきて、何処か外国の話をする番組が表れる。
地名や人命がカタカナで表示されるから、それが日本でないことだけは分かった。
どうやら、ニュースのようだ。
家で、父親が良く見ているような番組だ。
哲司はチャンネルを変えていく。
だが、家のテレビだと映る筈のチャンネルなのに、どうしてかシャーという音だけしか出てこない。
(ん? どこか変・・・。)
そうは思ったが、それでも次々とチャネルを変えていく。
夏休みのこの時間だと、家のテレビではアニメが見れた筈だという思いがあった。
ようやくアニメの映像にぶち当たる。
だが、そのチャンネルは5チャンネルだった。
家のテレビでは映らないチャンネルだ。
しかもだ。そのアニメの番組を哲司は見たことがなかった。
知らないアニメだった。
それでも、それを見ることにする。
別に、アニメがどうしても見たいからテレビをつけたのではない。
たったひとりで駄々っ広いこの家にじっとしているのが辛かったからだ。
何かに意識を持っていっていないと、涙が出そうになる。
どうしてなのかは自分でも説明が付かない。
と、そこに、表で自転車が止まる音がした。
哲司が飛び跳ねるようにして立つ。
そして、表庭に面した縁側の方向に走り出した。
祖父が戻ってきたと思ったからだ。
(つづく)