第7章 親と子のボーダーライン(その149)
哲司は、ついウトウトとしてしまった。
そして、ふと、気が付くと、お腹の上には大きめのバスタオルが掛けられていた。
「ああ・・・、寝ちゃってた・・・。」
そう呟くようにして身体を起こす。
周囲には、誰の気配もなかった。
見ると、テーブルの上には何も載ってはいなかった。
つまりは、朝食の片付けはすべて終わっているようだった。
「お爺ちゃ〜ん!」
哲司は、そう叫んだ。
だが、どこからもそれに対する返事は返って来ない。
「お爺ちゃ〜〜ん!!」
今度は、さらに大きな声で呼んでみる。
それでも、どこからも返事は聞こえない。
耳を澄ませても、ただ風の音が聞こえるだけだ。
哲司は、お腹に掛けられていたバスタオルを横に撥ね退けて、その場で立ち上がる。
そして、柱に掛かっている時計を見た。
(ああ・・・、もう9時になってる・・・。)
どうやら、祖父は何処かへ出かけたようだ。
台所へと行く。
そこに祖父がいるとは思えなかったが、兎も角そこに行く。
そして、その周辺を見渡すようにする。
田舎の家の台所は、信じられないほどに広い。
その昔、母親が子供の頃には、この家に8人もの家族が生活をしていたと聞いたが、それにしても広い。
そこに、今では祖父がたったひとりで生活をしているというのだから、そう感じるのも致し方ないのかもしれない。
母親の話によると、子供の頃は、ここに4世代の家族で住んでいたらしい。
姉妹3人とその両親。そして、祖父母に、さらには曽祖父がいたと言う。
つまりは、子供だった母親から見れば、父ちゃん母ちゃんに、爺ちゃん婆ちゃん、それに曾爺ちゃんがいたと言うことになる。
その“父ちゃん”が今の祖父である。
哲司は、何度その話を聞いても、どうにもピンと来なかった。
父ちゃん母ちゃんが一緒に暮らしているのは当たり前として、どうして爺ちゃん婆ちゃん、さらには曾爺ちゃんまでが一緒なのか。
生まれたときから両親とだけの家族の中で育ってきた哲司にとっては、そうした話しはまるで御伽噺を聞いているようで、まったく実感もなければ現実感も感じなかった。
だからかもしれない。
母親が「田舎からお爺ちゃんを呼ぼうって思ってるんだけど、どう思う?」と問われても、「どっちでも」と無関心な答え方をしてしまっていた。
(つづく)